ジャンル:FGO お題:天才の寒空 制限時間:1時間 読者:139 人 文字数:3096字 お気に入り:0人

浮心の告白

それを、恋だ! と思ったのが何故かと問われると、うまく説明はできない。かれこれ十数年という短い年月を生きてきて、恋愛というものはこれだ、と初めて思ったのだった。
 このカルデアに、尊敬する人、信頼する人、美しいと思う人、可愛らしいと思う人、怖いと思う人と、あらゆる感情を抱くこともよくあったものの、それが愛であって恋であると信じたのはたった一人だけだった。そして何を隠そうそれが仏道に帰依した英霊というのだから困ったものだった。宝蔵院胤舜。数か月前に下総での縁を便りに呼び寄せた坊主である。
「また処女好みが出たのか」
「そういうんじゃ……そうかもしれないけど、それだけじゃないよ」
 生まれて初めての恋の相談を、深い絆で結ばれたらしい、便りの槍の師匠にしてみると、呆れた調子で鼻で笑われた。神槍と呼ばれた彼は召喚に応じて親しくなってからというもの、俺に槍の手ほどきをしてくれる。マスターとサーヴァントという関係を越えて、すっかり師匠と弟子のような関係になってしまった。俺が既に李老師の門下に入っていることを伝えると、俺に槍術を教えてくれようとしていた胤舜はすこし驚いた顔をして、身体を鍛えるのは健康への第一だ、とそれを褒めてくれた。たまに胤舜とも手合わせをするようになったけれど、老師の槍捌きと似たような鋭さでありながら、動きも足運びも違うのでなるほど同じ槍の使い手といってもこんなに違うのか、と俺はいつも感心するのだった。
 老師の話になってしまったので話を戻そう。彼が指摘した、処女好みというやつだ。確かに俺は、処女が好きだった。別に処女を選んで好きになっているわけではない――と思う。好きになるタイプが処女とか童貞が多いという話なだけだ。貞節そうな人が好きなのだ。
 真面目で、潔癖で、真摯で、ストイックな人を。だから、処女を食うのが好きだとか、童貞を食うのが好きだとか、そういうキアラのような理由で人を選り好みしているわけではない。それを言うなら俺も童貞である。童貞処女だった。
 老師は俺がその趣味がまた出て、胤舜を気に入っていると言うのだった。
「確かに、老師のことを好きになったのも、武術しか頭になさそうだからとか、ジャンヌのことを好きになったのも聖処女だからとか、金時のことが好きになったのも童貞っぽそうだからとか、そういう疑惑を持たれたりも……しましたけども! 胤舜さんは……そうじゃないんだって」
「では何だ」
「すごい――素敵な人で、好きだし、俺なら――役に立てると思って」
「何のだ?」
「不邪淫戒の」
「気味の悪いことを言うな。破門にするぞ」
「気味わるくないでしょ! 仏道で大事なことだよ!?」
「役に立てると言うのが気味が悪いというのだ。聞きたくないが聞かねばなるまい。返答次第では宝蔵院にマスターに気を付けろと伝えねばならん」
 老師はすっかり辟易した顔だった。俺は、だって、と言い訳のように繰り返す。
「だって、他の人と付き合ったらセックスしなきゃいけない状況に陥るかもしれないけど、俺は付き合っても胤舜さんの童貞も処女も守れるよ」
「お前が宝蔵院のことを好んでいたとしても絶対に手を出さないと言うのか」
「セックス以外のなんだってしてあげるつもりだよ。俺は胤舜さんの信仰心を大切にする。そうしたら、付き合えるでしょ。俺個人としては、確かに胤舜さんでいやらしい妄想をしたりもするけど、でもそれ以上に――胤舜さんの信条を傷つけない。良い彼氏になれると思うんだよ」
「一理もないな」
 取りつく島もなかった。
「ないか……。だって俺ちょっと調べたけど、姦淫はだめだけど恋愛は良いはずだよ。愛って良いものだから。胤舜さんが何かを愛して、どうしてもいやらしいことがしたいと思っても、俺はそれを留められるよ。だって胤舜さんのことが好きなんだもの……」
 老師は難しそうな顔をした。分かりやすい話だと思ったんだけどなあ……と俺はぼんやりと思う。だって人のことを思って祈るくらい、あの人は優しくて素晴らしくて思いやりのできる人なんだから、そんな人が人と触れ合いたいという欲を捨てるのはきっと大変なんじゃないかと思うのだ。でも俺は、それをすべて耐えてみせる胤舜が――そういうものに打ち勝つ宝蔵院胤舜に恋をしているのだった。
「まあ、儂がだめだだめだと言っても愛だ恋だという話は儂には関係がないと言えばないしな。お主がどうしてもそれを成就させたいというのなら、その考えをぶつけてくるのもよかろう。だが、正直言って今までの弁舌は絆を下げたくなる程度には気味が悪いからな。それを理解しろよ」
「えっ、俺と胤舜殿、結ばれると思います?」
「いや……今のところまったく……」
「まあ老師に愛とか恋とか縁なさそうだしな……」
「小突くぞ」
「そういう所が好き……」
「お主のそういうところが気味が悪い。それ以外はそこそこ気に入っている」
「よかった」
 俺はのこのこと老師の部屋を後にした。付き合いが長いけれど俺のそういう趣味を認めてくれた人は今のところいない。ガウェインにすらちょっとわかりませんねみたいな顔をされたから、俺は早くお前の奥さんが実装されて欲しいよ、と言った。
 でもやっぱり胤舜には丁度良いと思うのだ。人として平凡で、特徴もない、どこにでもいる俺のような人間が、あのよくできた人の、何かに役に立てたら良いなあ! と素直に思う。恰好いい、優しい、思いやりがある、真摯で、真面目で、冗談がわかるあの素晴らしい人の、良い彼氏になりたいのだ。
 サーヴァントたちに割り振られた部屋の、胤舜の部屋をノックする。少し時間が経ってから、ロックが解除されて自動ドアが開いた。部屋の中には胤舜が1人だけだった。ベッドの横の床の上に、ござが引いてあって、その上で座禅をしていた。
「マスター、いかがなされたかな」
 俺がお邪魔します、といって中に入ると、座禅を解いて彼は正座になった。清々しいほど綺麗な姿勢である。俺はその向かいに同じように正座で座ろうとしたけれど、背中を反りすぎて不格好だと思った。胤舜は「そちらにある椅子に座られるがよろしかろう。もしくはベッドに座ってくださっても」と言った。でも俺は「胤舜さんと目を見て話しをしたいことがあって」と言ってそこに留まった。彼はきょとんとした顔をしたけれど、真面目な話らしい、と思ったらしく、うむ、足を少し開いて両手を軽く握り、太ももの上に軽く乗せた。
「何かな」
「俺、実は、胤舜さんのことが好きなんです」
「ほう、それは……ありがたい言葉だ。信頼に足る人間――サーヴァントとしてあれたことを誇りに思う」
「それで、だから、俺と付き合ってくれませんか」
「……」
 目を丸くして胤舜は固まった。「付き合う? 恋仲になるという意味で間違いないだろうか?」と確認のために言う。改めて言われると俺は恥ずかしくなって、ぽーっと頬が赤くなった。
「そうです。それで間違いありません」
「……マスター。拙僧の信仰する仏教には、五戒というものがあってだな」
「大丈夫です。俺は、そういうのはしなくても。我慢できます」
「我慢?」
「邪魔はしません。本当に。貴方に恋をしているんです!」
 胤舜の両手に縋るように俺は手を重ねた。俺の手は汗まみれで妙に冷えて、胤舜の手の甲の熱を少しばかり奪う。胤舜の姿勢は綺麗なままだった。白檀の香りがする。胤舜は何も言わない。水仙のようなうすい紫の胤舜の眼に、死にそうな顔をした俺の顔が映っていた。俺はそれを見た。

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