ジャンル:カルジュナ お題:ぐちゃぐちゃの結末 制限時間:30分 読者:67 人 文字数:2621字 お気に入り:0人

【カルジュナ】洋裁専攻xモデル志望13

「お主の実力、測らせてもらおう!」

アルジュナは逃げ出した。もう、これは受け入れられないと思ったからだった。しかし今回のネロはまたも違う分岐点のネロらしい。アルジュナの足に追いつくように最短距離のショートカットで走ってくる。曲がり角で他の学生にぶつかりそうになってしまっていたのもいけなかった。
アルジュナが走れば走るだけ、猟犬のごとくネロが後を追う。吠えるかのようにアルジュナの名を呼び、アルジュナの背に手を伸ばしてくる。
すんでのところで「お断りします!」と叫び、孔明の研究室へ逃げ込んだアルジュナは、部屋の中で煙草の煙をくゆらせる孔明の視線に頭を下げたのだった。
孔明になんでもありませんと言い訳をした後、アルジュナは授業に出て帰宅した。そして翌日のことを心配しながらも日付を確認し、眠りについた。
そこからは、もう、アルジュナも薄らと勘付いていた通り。翌日も日付は進まず、ネロがアルジュナの元へやってきた。

「なにせ、余すらモデルとして不十分だと袖にしたカルナがな、男に着せるとあって黙ってはおれん。何しろ、あやつがコンペを通れば余が手を貸すと約束してしまったのだ」

同じく、実力を見せろと指をつきつけ、アルジュナの返答はイエスしか認めなかった。

今までアルジュナは他人事だと思っていた。レオナルドに説明されても、自分が世界の中心で何も知らずに渦中の空気を吸っているなどとは信じていなかった。だが、これはどうだ。アルジュナの眼前で、何度目か分からないネロが居る。このネロを作ってしまったのはアルジュナなのだ。アルジュナが逃亡したことで、過去のネロが葬り去られていたとしたら。
アルジュナはネロの問いかけと挑戦に、首を縦に振るしか無かった。分かりました、と優等生らしく振る舞うことでしか未来へ進めないというのならば、この時よりアルジュナは茨の上を歩かなければならないし、棘のある薔薇を受け取らねばならない。砂で作ったスープを飲み続ける役割がアルジュナに与えられただけなのだから。

「素直なことは良いことだぞ! カルナにもそれくらいのかわいげがあれば……」
「あの人の話は結構です。私は貴方に何をすれば?」

苛立ちを隠せぬままに問うたアルジュナに、ネロは、うむ、と笑った。

「なに、難しいことなど無い。ほんの少しランウェイを歩いてみせてほしいだけなのだ」
「ではお伺いしましょう。それは誰の服を?」
「ますます良いな、そうだ、カルナの服を着てみてくれ!」
「お、」

お断りします。と再び口にしそうになり、アルジュナは口をつぐんだ。ここで否定しても世界は何度でもやり直す。ネロの言葉に全てイエスと言わなければならない強制力。
しかし、その一方で何故今までこの力が働いてこなかったのかと不思議に思う。アルジュナはこれまでにループを感じるようなことに出会ったことは無い。大きな失敗や事故にも無関係だった。

「……」
「用意させてはいるのだぞ。少し歩いてもらうだけで実力は分かる」

アルジュナは俯き、かぶりを振った。そこからいくつもの呼吸を繰り返し、ゆっくりと顔を上げる。アルジュナの瞳はまっすぐにネロを見据える。歩いてもらう、というのが、少し廊下を、というだけでないことぐらいは分かる。アルジュナはここ数年、確かに人間の記憶と共にモデルの端くれとして生きてきたのだから。何にせよ、自分だけではネロのフィールドで戦うには心もとないと判断し、アルジュナは口を開いた。

「数名、メンバーを連れて行きます。私が選定しても?」
「構わぬ」
「分かりました。マリー、ナイチンゲール、両名を。念のため、孔明教授にも声をかけていただけますか。学外でショーを行うのは褒められたことではありませんし、入校へは職員の許可が必要でしょう」

いつの間にか廊下の陰からこちらの様子を伺っていた二人に声をかける。分かったわ、とマリーが頷く。ナイチンゲールがアルジュナの横に立ち、ネロに向かって口を開く。

「ラーマという青年。アルジュナのスタイリストに彼を指名します。そちらの人間も居た方がよろしいでしょう」
「ふむ? あぁ、あやつか。良いのではないか? カルナのコンペ案に協力者として載っていたしな」

彼も居るのですか、とアルジュナが感心したような声で零す。しかし、次の言葉に目を瞠った。

「シータにも声をかけるか? あやつらは二人でスタイリングする方が評価が高いからな」
「え?」

何かおかしなことを言ったか? とネロが問う。ラーマとシータは切っては切れない存在。しかし、同次元に存在する彼らを、アルジュナは知らない。ナイチンゲールも、予想はしていたようだったが、何ともいえぬ表情を浮かべている。

「いいえ、彼女には席を外していただきたい。アルジュナの衣装のみ用意してただければ、彼と、あとは私たちが」
「心得た!」

気持ちの良い返事をするネロは、アルジュナとナイチンゲール、そしてマリーの心の内は知らぬだろう。いや、知らぬことこそがネロが人間である証拠になる。疑心暗鬼の藪の中にあって、ネロの微笑みが醜悪を切り裂く剣となれば良いのに、とアルジュナは思った。
しかしここまできて尚、アルジュナには自分が人間であるかもしれない、という可能性を捨て去ることができていなかった。何故なら魔力は感じず、慣れ親しんだ弓もなく、宿敵との因果も消え去った。この世において、大英雄アルジュナを形作る要素がどこにも残っていないのだ。人型をしたビーカーに、空気だけ詰めていても、それが何かは分かるまい。アルジュナである、と断定できるだけの中身を持たないアルジュナにとって、自分が「アルジュナである」という、根底の基盤すら揺らぎそうな感覚まで覚えてしまう。

「では早速、今日の放課後にこちらに来い! 分かっておるぞ、カルナには分からないようにしてやろう。余も命が惜しいのでな」
「ありがとうございます。助かりますわ、愛の皇帝様」
「ふむ? 見ればお主もなかなかのビジュアルだな? そなたが他のモデルの御付きとは勿体ない」
「御付きなどとおっしゃらないでくださいまし。わたくし、これでいてなかなか仕える方にも向いていますの」

にこりとマリーが笑いかければ、ネロは納得しきらないままにも引き下がる。この潔さはサーヴァント時代にもみられていた様に思う。

「」

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