ジャンル:アイドルマスター お題:去年の水たまり 制限時間:2時間 読者:23 人 文字数:3156字 お気に入り:1人

あの日の約束



バスケ部指定のジャージを着ている俺の少し前を行く幼馴染に俺は声をかけた。

「奈緒」

「どうした?」

幼馴染は俺の呼びかけにニコニコしながら応じた。屈託のない笑顔、俺みたいな偏屈なやつには勿体無い幼馴染だ。

「応援、ありがとな」

「べ、別にお前のためじゃなくて加蓮も行きたいって言うから仕方なく」

「それでもだよ。ありがとう」

俺がそういうと奈緒は顔を赤くして俯いてしまった。昔からこういうやつだ。お礼を言ったりするとツンデレを発動させる。そこが可愛いんだけど。

「それにしても、お前がアイドルなんて思いもしなかったよ」

「アタシがああいう衣装着たりするのは意外か?」

「別に」

昔一緒におもちゃ屋とか行った時はほぼ確実に魔法少女の衣装とかを目を輝かせながら見てたし、今でもテレビのアイドル見たりする時は時々『いいなぁ』とか呟いてるし、意外でもなんでもない。むしろ当然だろう。

「お前ならどんな衣装着ても似合うさ。可愛いし」

「なっ!」

そうやってすぐ顔をリンゴみたいにするのが可愛いんだ。昔から本当に変わらない。

「ア、アタシがか、かわいい?」

「おう」

また顔を赤くして俯いてしまう。そんなことしてたらステージに立った時に二秒に一回は俯かなきゃならないんじゃないだろうか。

「そ、そうか」

「そうだよ」

俯いて顔を隠してるつもりかもしれないが、口元が緩んでるのは横からでも丸わかりだ。多分可愛いって言われたのが嬉しいんだろうな。
それからしばらくの沈黙が続いた。家はもうそろそろだ。奈緒と話しながら歩くこの時間もあと少し。毎朝のように話すが、それでもこの時間はなんとなく名残惜しい。

「なあ」

チャプと路地に出来ていた小さな水溜りを踏んで湿った靴の気持ちの悪い感触を味わいながら、俺は未だにニヤニヤしている奈緒に声をかけた。

「なんだよ」

「お前のライブ、あったら言ってくれよ。絶対行くから」

「う、うん」

奈緒は虚をつかれたような顔をして頷き、よし、と言った。

「なら絶対来いよ!チケットも渡すからな!」

「りょーかい」

「あの時みたいに約束破るなよ!」

「分かってるよ」

俺と奈緒は互いの小指を結んだ。



そんな会話をしたのが去年のこと。今現在の俺は窮地に陥っていた。

「試合とライブ……どうするべきなんだ」

最悪なことに試合と奈緒の所属するユニット、トライアドプリムスのライブがかぶってしまったのである。俺史上最悪な出来事だ。彼此二週間悩み続けている。

「うるさいなぁ、さっさと決めなよ」

妹が雑誌を読みながらそんなことを言ってくるが、さっさと決めれるようなことではないのだ。バスケ部のエースである俺が試合を休めばきっとウチのチームは県大会に出場することは出来ない。そうすれば先輩たちの最後の思い出は地区予選敗退という苦い思い出で終わってしまうことになる。
逆に奈緒のライブに行かなかったらか俺はきっと後悔することになるはずだ。奈緒の機嫌が悪くなることはもちろんのこと、去年のあの約束まで破ってしまうことになるんだから。

「よし、お兄ちゃん」

「なんだよ愚妹」

「間をとって私が奈緒さんのライブに行こう」

「却下」

絶対こいつ自分が行きたいだけだ。

「まあダメなら仕方ないけど……というかお兄ちゃん」

「なんだよ愚妹」

一々うるさいな、こいつ。ガムテで口を封じるべきか?

「試合の時間見たら?もしかしたらギリギリ行けるかもよ?会場近いんでしょ?」

「天才か?」

「お兄ちゃんが馬鹿なんでしょ」

サラッと兄貴である俺をディスりやがった。そんなことよりスケジュールだ。開場が十三時だろ?確か初戦が九時からで、十二時に二試合目。それに勝てば県大会出場決まるから……。

「行ける!」

開演には確実に間に合う!

「良かったじゃん」

「愚妹!ありがとう!」

「愚妹言うなし」

尻を蹴飛ばされるが気にしない。これで一件落着。なんとかなる。



第二試合。相手は決して強くはない中堅校。この調子だったら相手にトレイシーマクレディでもいない限り延長戦に持ち込まれることはないだろう。

「よし!切り替えていきましょう!」

もう時間も少ない。相手も負けを認めたのか、それとも最終兵器なのか分からないが、背番号からして一年のやつを投入してきた。

「よし、決めてこいタクマ!」

俺にパスが回される。得意な右45度の位置からの1on1。クロスオーバーで相手を抜き去ってボスハンドダンクを決める……つもりだった。

俺の体はゴールに向けて飛んだ瞬間、一つの悪意に晒された。

「喰らい、やがれ!」

さっき投入されたやつが俺の前に飛び出していた。このまま行ってもブロックはされない。俺はそう思ってボールをリングに叩き込もうとした。
だが、相手の狙いはブロックなどではなかった。

ベギ

そんな音が肩から鳴った。殴られたと気づいたのは一瞬遅れてからのことだった。審判も攻防戦でよくあることだからか気づいてない。これに気づいているのは相手と俺、ただ二人。
重力に逆らうこともなく、俺の体はコートに向けて落下した。それも相当な不格好。ちょうど右手が下になって全体重がかかるような状態で。

ボキ

と骨が折れた音がした。もうダメだ、馬鹿な俺でもそれには気づいた。

「ぐっ…」

声はあげなかったが、手は明らかにおかしい方向に曲がっている。これはほぼ確実に病院送りだ。でもダメだ。病院に行ったりしたらアイツとの約束が果たされない。

事態に気づいた審判が笛を鳴らした。涙で歪む視界に担架が現れた。嫌だ。奈緒との約束なんだよ。破りたくないんだ。あの時俺が約束破って、アイツ泣いてたんだよ。もうあんな顔は見たくないんだ。
でも逆らうことは出来ない。弱い俺がいるから。怪我してるんだ、仕方ない。そんなことを囁いてくる。
チームは勝ったが、俺は結局約束を破った。戦争なんかとは違う。約束だけは破った方が負けなんだ。
俺はその場では勝者でもあり、敗者だった。



「奈緒」

「どうした?」

包帯でぐるぐる巻きにされた右手を首から吊っている俺は、いつものように奈緒と例の路地を歩いていた。

「悪かった」

「いいよ、別に。そんな怪我したんだから。ノーカンノーカン」

「でも」

「アタシがいいって言ってるんだ。ほらほら、この話はおしまい」

奈緒は笑ってるけどきっと内心は少し悲しいはずだ。やむを得ない事情があっても、約束が破られたんだから。

「あの時みたいに泣かなかったか?」

「泣かなかったよ!何歳だと思ってんだ」

俺が迎えに行くっていって忘れてて、奈緒は一人でずっと待ってて、泣いてた。何回も謝ったな。結局なんて言って泣き止ませたんだっけ……覚えてねぇや。
今も本質的には変わってないんだから、泣いててもおかしくないと思ったんだが。

「17だっけ?」

チャプと小さな水溜りを踏んだ。跳ねた水が奈緒の足にあたってヒャッと可愛らしい悲鳴をあげた。

「うん。そうだよ」

ニカッと笑った奈緒は両手を広げて俺の前に突き出した。

「あれから十年経ってもあの約束は有効だろ?アタシは絶対泣かないよ」

へへへ、と照れくさそうに笑った奈緒の髪がふわりと風と踊った。





「奈緒、泣くなって」

「ひっく、うぅ」

「奈緒、前に俺と結婚するって言ったよね」

公園の隅でうん、ともふもふした髪の幼女が頷いた。

「じゃあさ」

結婚式まで泣かないでよ。もう俺も約束は破らない。だから、指切りしよう。

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