ジャンル:ブロードウェイと銃弾 お題:失敗の恋 制限時間:2時間 読者:100 人 文字数:1677字 お気に入り:0人

コイバナ




ボストン行きの急行列車の廊下を、用を足しに異って戻ってくると、デッキのところに見慣れた人影があった。
グレーのロングコートに帽子をかぶってたたずむ姿はそれだけで絵になる。
僕自身がぜひ彼をと望んだのではあるけれど、ここまでスマートな姿を見せられると羨ましくも思えてくる。
品がよくて力強くてセクシー。
僕の書いた中尉そのものだ。
移動販売で買ったのか、ときおりピーナッツを口に運びながら、走り行く景色を眺めている。

「やぁ、デビッド」

彼が僕に気づいて破顔した。
人の良さそうな笑みは、きっと多くのファンを虜にしているんだろう。

「ワーナー、邪魔してしまいましたか」
「そんなことない。そろそろ退屈していたんだ。景色も見飽きてきたし」

食べる?とピーナッツの袋を差し出されて、断るのもなんなのでいくつかをもらった。

「浮かない顔だね。大丈夫、ボストンのトライアウトはうまくいくさ」
「ああ、そう、ですね…」

きっと今ごろ、どこかのコンパートメントでチーチが僕の脚本を徹底的に直しているんだろう。
そう思うとひどく憂鬱な気持ちが戻ってきた。

「なにか心配でも?」
「い、いえ…あそうだ、ワーナーは二人の女性から取り合いされたなんてことも、たくさんありそうですね」
「僕が? まさか、僕はもてないからね」
「そんな、ご謙遜を」
「謙遜じゃないよ。僕は本気の恋をしないからね」

微笑んだ彼が、どこか悲しそうに見えた。

「え…」
「僕の真心は、もうあげてしまったから、心を捧げるような恋はできないんだ」
「それって…その人は…」
「君は、二人の女性の間で揺れてるのか」
「…はい」

別れ際のエレンの無理をした笑顔を思い出す。
彼女が手渡した青いセーターを振り落としたときのヘレンの顔も。
そうさせたのは僕なのに、僕にはどうしようもできないでいる。

「恋人は、売れない脚本家の僕を信じて10年もついてきてくれました。彼女のことは可愛いしすごく大事にしなきゃって思ってる。でも同時に、とても魅力的な大人の女性に惹かれてしまってもいるんです。彼女があまりにも素晴らしすぎて、彼女を手に入れられるなら何を捨ててもいいとまで思ってしまう」
「わかるよ」

ワーナーが頷く。

「アーティストって、感情が溢れてるんだ。だから時々自分自身のことも見失う」
「僕はどうしたらいいんだろう」
「君は、どうしたい?」
「え?」
「どうするべき、ではなくて。どうしたい?」
「どうって…」
「まずは、君自身の気持ちを知らなきゃ。大丈夫、あんなに的確に美しい言葉を書ける君だ、きっと君自身の気持ちもちゃんと見つけられるよ」
「そう、でしょうか」

台本のことを言われて、また少し気持ちが沈む。

「ボストンでのことはいい機会になる。少し離れたところから、自分を客観的に見てみるんだ」
「…はい」
「それとね、デビッド」

急に彼が表情を引き締めた。
特徴的な大きな目が僕を見つめた。

「終わった恋も、始まらなかった恋も、大事にしてあげてね」
「それって…」
「そのつらさも切なさも、苦しみも悲しみも、そして甘さも、きっと君の糧になるよ」
「ワーナー…」
「僕はね、10年後の君がどんな脚本家になってるか、とても楽しみにしているんだ」
「…ありがとうございます…!」

胸がつまって、それしか言えなかった。

「あ、ピーナッツなくなっちゃった。買ってこなきゃ」

とたん、雰囲気が変わる。
さっきまでの真剣さは霧散して、わたあめみたいにふわふわと笑う。

「じゃーねー」
「あ、はい」

思わず苦笑してしまったが、ワーナーは気づかなかったようで、ひらひらと手を振って行ってしまった。
その後ろ姿を見ながら、さっきの彼の顔を思い出していた。
あの人の相手役は、あんな目に口説かれているのか。
僕にもあんな顔ができるようになるだろうか。
その時脳裏に浮かんだ顔がどちらだったかは、僕にはまだわからなかった。

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