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企画用*星の唄(終)

小説導入用、お題ガン無視(続き)
お題:星の唄
キャラクター:葛野大路颯馬





――――手を伸ばしても届きはしない。そんな気はしていたんだ。



 僕と彼が出会ったのは、ほんの偶然に過ぎなかったのだろう。僕がこの学園の二年生として歌唱部に所属していた時期と、彼が“外”の学園への編入を許された時期とが、たまたま、偶然に重なった。それだけのことだ。そしてその間に、その以前に、その後に――どれだけの悲しみを、苦しみを、彼が抱えていたか。そんなことは、僕にはまるで推察できないことだった。


「・・・・・・もうすぐ、三年生は卒業だね。水月先輩も、燎さんも、あと東本先輩も」

 日の傾いた冬の帰り道、彼はぽつりとつぶやいた。何気ない言葉、この時期ならば誰もが思うことだ。その声に一抹の寂しさがにじみ出すのも、後輩であるからには仕方のないことだ。部の先輩たちも同じように感じてくれていればうれしいのだけれど、残念だがそれを直接聞くほど野暮でもない。
 四月、新学期からは彼がこの歌唱部の部長として活動することになる。部員は僕を含め三年生ふたりのみになってしまうから、存続の危ぶまれる歌唱部としては来年度は新入部員の確保に奔走するはめになるだろう。彼の言葉はそういった不安もあってのことかもしれなかった。
 弾んでいた会話も少しずつ収まり、並んだ自分たちの影を見ながらぽつりぽつりと言葉を交わした。だんだんと気温は下がっているはずだが、そう寒くは感じなかった。行く道に落ちた二つの影法師が、歩調に合わせてゆらゆらと揺れている。会話の切れ目にふと横を向いたとき、夕日を背に向けた彼の顔が寂しそうに見えて、彼の姿が遠く見えて、ふいに心がざわついた。

「――っ、陽太っ!!」

 腕を捕まれた彼が驚いたようにこちらを向く。颯馬らしくない、そう思ったかもしれない。実際、自分はこうまで大きな声を出すつもりも、そして考えもまとまらないままに声にしてしまうつもりもなかった。とっさに、捕まえなければならない、今引き留めなければ彼はどこか遠くへと行ってしまう、そう思ったのだ。いや、思う間すらもなかった。ただただ不安な気持ちのままに手を伸ばした。何も知らない子供のように。

「颯馬?」

 呼び止めたきり止まってしまった僕の顔を、彼が不思議そうにのぞき込む。彼に言うはずだった言葉はとうにどこかへ消えてしまって、軽く首を振って手を離すほかなかった。

「・・・・・・いや、何でもない。驚かせてすまない」

 そう、と言って彼は再び前を向く。会話が戻ってくるのにもさほど時間はかからなかった。またたわいもないことを話しながら、帰る道を二人で歩く。先ほど感じた漠然な不安がなんだったのかはわからない。それの正体がわかることが果たしてよいことなのかもわからない。彼が寂しさを感じているのならば、自分たちがそばにいることでそれが少しでも薄らげばいい。そんなことをぼんやりと考えていた。



 彼が“外”の世界に留まっていられないことを知ったのは、ずいぶん後のことだった。彼や自分や多くの同級生たちが卒業して、そのずっと後。もちろん、それを本人の口から聞くことはなかった。
 いつかこの日々は崩れ去ってしまう、そんな予感はしていた。だけれども、自分は彼の笑顔に甘えてうまく騙されたままでいた。知らない方が、感じる負担は軽いものですむから。卒業間際の彼は、あのときと同じように笑っていた。どこか寂しさを漂わせながら。どうして自分は彼の抱えるものに気がつかなかったのか。彼の手を取ることができなかったのか。きっと笑顔の向こう側で、いつか来る別れを見ては一人胸を痛めていた。
 今は届かない、けれどあのとき手を伸ばしていれば、届いていたかもしれない手。手をつなげなかったのは、あのときの自分。

――いっそのこと、自分のこの立場も彼を縛るしがらみも、すべてを壊してしまえたならば。彼の手を引いて、どこか遠くへ一緒に逃げてしまえるのに。

 馬鹿馬鹿しい。どうしようもない妄想を振り払うように首を振る。離ればなれになりどこにいるかもわからない今、自分は直接的にどうにかすることはできない。そして優しい彼のことだから、今彼の置かれている状況を捨てて出てくることなどないだろう。
 今もどこかで陽太が心から笑えていたら、それでいい。そして――贅沢を言うならば、自分たちと過ごした時間が、思い出が、彼の安らぎとなればいい。あの日々にあふれていた笑顔と歌声が、今も僕の心にあるように。いつかまた共に歌い、笑い合える日が来ることを願ってしまうのは、わがままだろうか?

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