ジャンル:刀剣乱舞 お題:調和した負傷 必須要素:予想外の展開 制限時間:2時間 読者:62 人 文字数:3824字 お気に入り:0人

【土佐弁審神者】ほしい、どうしても①

「もうここらで終わり、だよね。たしか」

木々の間に身を潜めた石切丸がそうつぶやくと、木の上にいて単眼を覗いていた隊長の陸奥守吉行も、ほうじゃのう、と呟く。そして目を凝らし、周囲を見渡す。そして気を感じ取るために目を閉じ、神経を集中させる。しばらくして、また、目を開ける。……時間の流れに乱れは生じていない。検非違使が出現する気配もなければ、敵と遭遇することもなかった。

そこそこに長い遠征だった。
陸奥守吉行はふう、とため息をつく。
半日かかってしまった。朝餉のあとばたばたと出発してから、昼餉もとらず──燭台切が持たせてくれた軽いものをつまんだぐらいで──監視任務を続けていた。ぐぅう、と体の奥で腹の音がした。

「……そろそろえいじゃろ」

人の身を得てから、別の方向に脆くなった身体は、疲労を溜めやすい。早く本丸に戻り、身体を清め、食事をとり、眠りたかった。

「陸奥守さん、まだかい?」

焦った、というよりも疲労困憊、といった様子のにっかり青江が茂みに隠れながら上をみやる。
彼の体力はもう限界なのだろう。幾つもの戦を経験してきた大脇差とはいえ、人として身体は多く見積もっても青年一歩手前、といったところ。たとえ動かずとも、よく食べよく眠らねばならない年頃である。コスパが悪いよ、と最近では出陣のたびにもらす文句を言いながら、耳の前に垂れてしまった髪をかき上げる。顔を傾けると右目の赤が前髪の間から覗く。木立の中でのその仕草は絵になっていた。石切丸の言いぐさではないが、彼は別に神刀如何を気にしなくてもいいような気がする。本人が悩んでいる事柄に無責任なことも言えないので、陸奥守や他の面子は黙っているが。陸奥守は上から青江の様子を眺めていた。体育座りのまま、両肩の間に顔を埋めながら、帰ったらご飯いっぱい食べたい、という呟きと、はぁ、というため息が同時に聞こえてきて、なんだか微笑ましく思った。中身はまあ、自分より年上だし、三日月宗近ほどではないにせよそれなりに爺さんなのだが。

「ほいたら帰るかのお」

陸奥守は木の枝から幹に器用に移ると、そのままするすると地面に着地し、隠れている残りの隊員を呼びに行った。







本丸に帰還すると、誰の出迎えもなかった。

「……おかしいねえ」

こてん、と首を傾げて髭切が呟く。

「弟の、ほら、いつも僕には迎えがあるじゃない?弟の、ええと……」

「別にいいじゃねえか、迎えなんて、うっとおしい」

髭切の忘れ癖には突っ込まず、同田貫正国が唸るような声を上げた。結局戦闘にならず──それ自体はいいこと、なのだが──若干の苛立ちを抑えきれないでいる。ぎりぎりと歯ぎしりをして、少し不快な音を立てる。

「僕たちが出陣していること、忘れちゃったんですかねー」

そう物吉貞宗がつぶやく。正国とは対称的な、真っ白な戦衣装の彼は柔和な表情を浮かべている。物吉はいつ何時もこの調子だ。実際の戦闘でもこの調子なので、隊長の陸奥守は肝が冷えるし、胃が痛い。

「でも僕たちが帰ったことぐらい、わかると思うんだけど、なんだっけ、ほら…あれが、ええと」

ああ、もう、言葉が出てこない。と、両手をばたばたさせて騒ぐ髭切を、正国は冷めた目で見ていた。本当に源氏の惣領かこいつ、という目で。青江の視線は髭切を通り越して、どこか遠くを見ている。物吉はにこにこしていて、石切丸は額に汗を浮かべている。陸奥守は頭痛がしながらも、

「アラーム、が鳴るんじゃ。アラーム!」

「そう、アラーム!あれが鳴るんじゃなかったっけ。」

ぱあ、と明るくなった髭切は、壊れちゃったのかな、と続けた。アラーム、アラーム……ぶつぶつと呟きながら。
この編成になってから、膝丸の苦労が身に染みて分かったような気がする、そう思いながら、陸奥守はパン、と手を叩き、よく通る声で言った。

「はーい!注目しとうせ!迎えのことはよおわからんが、遠征は終わった!各自次の任務までのんびりしとうせ。わしは成果と状況を主に報告してくるきに」

はーい、という髭切と物吉の明るい返事に、何故だか元気が逆に吸われていくような気がしながら、陸奥守は審神者を探しに歩き出した。






一番奥まった部屋より一つ手前の──執務用でなく、寝起きに使っている部屋──に審神者はいた。

「邪魔するぜよ、主」

そういって襖を開けると、紙とがらくた──少なくとも陸奥守にはそうとしか思えない──ばかり集まった部屋の中心で審神者は先程から出陣命令を出す端末を猫背でいじっていた。
それ自体は、別段変わった行為ではない。直接口頭で指揮を執ることもあるが、最近はめっきりそんな機会は減ってしまった。何せ刀剣男士にとってもそれは時間短縮の意味でも便利なので、誰もそれを咎めるものはいなかった──へし切長谷部が端末の導入に賛成したのには、流石に驚いたが。

直接主命を狩りに行く長谷部は……言ってしまってはなんだが、端末越しの命令に「愛がない」と怒るだろう。皆そう想像していたのに、なぜだかにんまりと笑みを浮かべ、ありがたき幸せ、と、端末を受け取っていた。なぜ喜んでいるのか、と他の刀たち──主に織田で縁のあった刀たちに気味悪がられながら尋ねられると、ああそれはな、とニヤニヤしながら答えた。

「これで下された命令を俺が確認すると主側の端末に『既読』という印が付くんだ。もちろん、俺が主に何か言葉を送り、それを主が確認するとその逆が起きるわけだ。そしてこの端末が壊れない限り、内容はほぼ永久に残る。この端末は印刷機にもつなぐことができるんだそうだ。で、俺はな、この──」

この端末に情報が溜まったら、それを印刷して、壁に飾る。
そうしたら、主で部屋が満たされて……

数秒後、想像を膨らませた長谷部の頭から勝手に桜が舞った。

鶴丸は黙った。光忠は微妙な笑顔を浮かべていた。宗三は完全に引いていた。薬研藤四郎は眼鏡の反射で表情が読めなかったが、プラスの感情は持っていないだろう。持っていたら引く。
以後、陸奥守は長谷部の部屋についての情報を完全にシャットダウンした。



閑話休題。遠征の報告をせねば。



先程声をかけたのに主からの返事がない。集中しすぎているのか?
側にいるへし切長谷部は今の近侍なのだろう。そして彼もなにやら真剣な表情をしている。


「どういた、主」


陸奥守吉行が、にゅっと視界に飛び込んできたことで主──審神者は顔をようやく上げる。

「ん、吉行」

「主、集中しゆうがはわかるけんど、無視されゆうおもうてちっくと悲しかったぜよ」

「……ごめんにゃあ。遠征は?どうやった?」

審神者──ここでは、女である──が土佐弁混じりの、というかほぼ完全に土佐弁で、ねぎらいの言葉をかける。

「上手くやった、と思いゆうがやけんど」

「どれどれ」

書類やら端末やらで、詳細を確認すると、しばらくして、

「まあまあ、やね」

ふう、と陸奥守は息を吐いた。元々は生まれた時代のせいで箱入り、大切にされていたとはいえ、実戦経験がほとんどない陸奥守はこの瞬間が一番緊張した。自分の戦績を確認されるのはどうにも慣れないし、なんだか、こそばゆい。いや恥ずかしい?
ぐるぐる考えながら主の手元を見ていると、一部隊、まだ出陣していることに気が付いた。

「けんど……──はあ」

審神者はため息をつく。どうしてだろう、遠征は上手くいったはずだし……。

「陸奥守」

部屋に入った瞬間から置物と思えるぐらいに何も喋っていなかった長谷部が口を開いた。

「なんぜ」

「小判箱はどうした」

「──は?」

「小判箱だ。遠征の土産、だ」

ないのか、そう問われて陸奥守は少し狼狽した。
今回は見つからなかった、そう答えると、そうか、とだけ呟いて長谷部は元の置物に戻った。
主は項垂れたまま端末に視線を戻す。

「じゅうまん…」

はあ、と審神者のため息だけが部屋に響いた。

何が何でどうなっているのかわからないし、呑み込めない陸奥守は所在なさげにきょろきょろと部屋中を見渡した。
やはり、この部屋は汚い。掃除をしたほうがいい。カラーボックスの上にはうっすらと埃が積もっている。
一応衛生的に保たれているし、換気もしているし……そうやって部屋中に目をやっていると、普段は見ない顔を発見した。

そう、主の心配の種となっているのは──



「大包平」


突然、鳴いた。
外見は青年だが千年を生きる美術刀、鶯丸である。


「大包平」

鶯丸はまるで歌うように、呼吸すればそのたびに同郷の大包平の名前を口にする。それ自体はまあ、今では当たり前のこと、なのだが。

「うるさい」

審神者は絞り出した、といった感じでその言葉に釘を刺した。
わかっているから、と。
松葉色のふわふわした頭が少し揺れたが、飽きずにまた、おおかねひら、と囀る。

「──やきわかっちゅうきうるさいいいゆうろうが!」

審神者の言葉は苛立ちというより焦りの色が混じっていた。
長谷部も眉間の皺を深くしている。
陸奥守は事態をまだ呑み込めず、頭が混乱した。

暢気に、マイペースに、しかし確かな意志をもって、鶯は囀る。

「大包平」

そう、原因は、彼である。二重の意味で。

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