ジャンル:弱虫ペダル お題:今の小説家 制限時間:2時間 読者:92 人 文字数:1709字 お気に入り:1人

満たされたい

ー視線が欲しい。そう願ったのはこれが最初で最後だっただろう。

俺と巻ちゃんは、最高のライバル兼恋人だ。
俺は巻ちゃんに沢山の愛を注いでいた。常日頃から好きだと伝えていた。

でも、結局巻ちゃんには与えてばかりだった。愛を与えても与えても、巻ちゃんは他に視線をやる。
与えるだけで幸せだったはずなのに、気付けば見返りを求めるようになった。
巻ちゃんの意識が俺だけに向けられることは、その時はあまりなかったように思う。


ーただ巻ちゃんの視線が欲しかった。巻ちゃんに俺を見て欲しかった。


ある時その気持ちが爆発して喧嘩になってしまった。
と言っても、俺が一方的に怒っただけだったのだが。
俺たちの公式レースが終わった後の話だ。レースが終わったら俺の家に来いと約束をしていた。
…あれは確か、総北の田所だったはずだ。レース後に巻ちゃんと田所がとても楽しそうに話をしていた。
俺の前なんかじゃ見せないような本当に楽しそうな表情をしてて、頭にきて。
だから、俺の家に巻ちゃんを連れてきた後一発巻ちゃんを殴ってしまったのだ。


するとどうだ。巻ちゃんの視線は俺だけに注がれたのだ。あれ程他に注がれていた視線が。
これ程興奮したことはなかった。


初めてだった。巻ちゃんがあんなに俺に釘付けになって。俺の挙動一つ一つに反応して。
視線を注いでくれて、それが堪らなく快感だった。
もっともっと巻ちゃんの視線が欲しくて、怒りは収まったがひたすら身体を殴り続けた。
我に返ったのは、巻ちゃんが意識を失ってからだった。

巻ちゃんの身体は赤く腫れていたり、痣ができていた。服の下には見ていられない程の傷があった。
息がないように見えて血の気が引いたが、静かに呼吸をしているのが分かり安堵した。
だがその安堵はすぐ無くなった。これで巻ちゃんに嫌われてしまっては終わりだ。
怖くて怖くて。巻ちゃんに拒絶されるのが。必死で巻ちゃんの傷の手当てをして、ふかふかの布団に寝かせた。

巻ちゃんが起きたらすぐに謝ろうと思ったのだが、俺も殴り疲れて眠りそうになった。
その時巻ちゃんの布団がもそもそと動いた。薄っすらと巻ちゃんの目が開いていく。
「……巻ちゃん。」
巻ちゃんは俺を見るなり布団で自分を包みこんだ。身体は小刻みに震えている。

「…あ…あごめん巻ちゃん、俺、巻ちゃんのこと傷つけてしまって。もうしないから…。あのな、巻ちゃん。俺、あ…。俺、巻ちゃんに俺を見てほしくて。殴ったら俺のこと見てくれたろ?そしたら嬉しくなっちゃって。はは…おかしいよなぁ。巻ちゃん殴って、傷つけて嬉しいなんて。好きだ。だからやっちまったんだ。本当にすまない巻ちゃん。」

嫌われるのは覚悟の上だった。全て話した、もう俺はーー

「だいじょうぶッショ。なあ、俺たち最高のライバルで…恋人だって言ってたッショ?俺、こんなことで嫌いになったりしないッショ。
不安だったんだよな?俺の特別はお前しかいねぇッショ。尽八。」


俺の頭をぽんと撫でた巻ちゃんは温かかった。

その言葉は その手のぬくもりは

優しくて、俺を包みこむような、そんな気持ちになれた。


あんなに欲しかった巻ちゃんの視線より、満ちた気分になれるものがあったのか。


俺が与えてばかりなんて、よく言ったものだ。こんなにも俺を想ってくれていたのに。
巻ちゃんが離れて行くかもしれない焦りで、肝心な巻ちゃんのことが見えていなかった。

「温かいよ。巻ちゃん。お前の言葉で満たされていったよ。本当に、お前は優しいやつだな。」

巻ちゃんは布団でニヤリと笑った。

「これから一生、俺の飯奢りの刑ッショ?」

なんの冗談だ、と笑おうとしたがふと気付いた。

「巻ちゃん、それって!!」

「さ、俺はもう寝るッショ」と布団に潜ろうとする巻ちゃんの布団をひっぺがした。
嫌ッショ〜また殴るッショ?なんてふざけていいながら。

俺が本当に求めていたのは、巻ちゃんの視線じゃなく
巻ちゃんの温もりだった。でももう不安になって暴力を振るうような真似はしない。
不安は消えた。巻ちゃんの言葉、温もりで。

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