ジャンル:世界樹の迷宮 お題:昼間の冬 制限時間:15分 読者:59 人 文字数:705字 お気に入り:0人

ブランケット症候群


「寒い」
 主が呟くと、尖らせた唇から真っ白な吐息が漏れた。零した八つ当たりは音もなく凍りつき、ふわりと空中に消えていく。
 両腕の袖口に手首を突っ込み何とか暖を取ろうとしながら、主がまた一つぼやく。
「……寒い」
 昔から主は寒がりだった。春先になると寒いと地団駄を踏んで暖炉を焚いたし、夏が終わりかける時期には寒い気がするとのたまい冬服を引っ張り出した。主の中に秋は存在しないらしい。冬になると朝と昼と晩、鳩時計の鳩が鳴き声を上げるように寒い寒いと毎時弱音を吐いていた。
 カーテンを全開にした窓から陽射しが差し込み主の背中を必死に温めるが、あまり効果はないらしい。イライラと肩を揺すり摩擦熱で体温を上げようと努力する様子が見て取れる。
 太陽が雲に隠れたのか、一瞬陽光が陰る。室内の温度が数度下がった。ような気がした。
 と、ソファに座り込んだまま主が私に向かい顎をしゃくる。無言のままでも何をすれば良いのか私には良く分かった。
 分厚くふかふかした毛布をベッドから引き剥がすと、両腕いっぱいに広げて主の頭の上から覆い被せてやる。
 ちょうど人型のぬいぐるみか毛布を被ったゴーストのようなシルエットが完成し、下がり始めた体温とは裏腹に胸の中がほんのりと内から暖まっていく。
「アレウス」
 私の名を呼びながらもぞもぞと体をずらし、主が毛布の隙間から出した手でソファを叩く。
 誘われるまま腰掛けると、毛布のゴーストはその布切れを翻して私の体を飲み込んだ。
「……お前は冬も役に立つな」
 冷えた手の平が腰に回される感触にぶるりと身じろぎし、やがてその指先に熱が宿るのを感じながら、私は静かに瞼を閉じた。

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