ジャンル:世界樹の迷宮 お題:許されざる団欒 制限時間:30分 読者:85 人 文字数:1502字 お気に入り:0人

四人の食卓

「えっと」
 握り締めたコーヒーカップを持ち上げたくても腕が動かない。指先から冷たくなって、中に注がれた茶色液体が何なのかも分からなくなる。喉の奥が胃液の味でいっぱいになって、鼻がつんとする。
 紛れもないストレスと緊張による体の不調を隠すように、俺はできるだけ明るい声で二人に話しかけた。
「その、晩ご飯とか、このまま一緒に」
 チェーザレが鼻を鳴らし、そっぽを向いた。多分『勝手にしろ』と言いたいのだろう。
「……そうだな」
 低く嗄れた唸り声を上げ、男が鼻先に皺を寄せる。それは拗ねた時のチェーザレと同じ表情で、そう言えばこの二人は親子なのだということを思い出させた。
「早く出て行った方が良さそうだ」
「……で、でも、こうやって集まることってそんなにないし」
 おじさんかお義父さんか、それともチェーザレが呼ぶようにジジイと呼んだ方がいっそ良いのだろうか。
 深くため息をついて、ロレンツォが相変わらず余所見したままのチェーザレを見やる。
「俺は気にしないが、こいつがどう思うか」
「俺がどう思ってるかなんてどうでもいいだろ」
 窓の外を飛び交う小鳥を眺めながら、駄々っ子が喚く。テーブルをひっくり返して親父の上にのしかかり殴りつけたりしないだけまだマシだと思うべきだろう。
 とっくに冷えたコーヒーを一口飲み下し、この緊迫した空気を打破する一言を考えてみるけど、苦味のせいで余計に泣きたくなっただけで、気の利いた言葉なんて頭に浮かばなかった。
「お前はそうやってすぐに拗ねるな」
「あんたもすぐ怒鳴り散らして俺のこと殴ったよな」
「チェーザレ!」
 堪らず声を上げると、暴君はイライラと指先を噛みながら俺を睨めつけ黙らせる。
 時計の秒針の音だけが広いリビングに響き、その音に合わせて俺の胃痛が深まっていく。
「……帰るか」
「えっ」
「てめぇの嫁でも呼んでこいよ」
「そっ……その言い方、やめろよ」
 頭の中に白いエプロンを纏ったあの元奴隷が浮かび、邪な妄想を振り払うためにもう一口液体を飲み込む。
 嫁と形容されたことが気に食わないのか、ロレンツォは何か言い返そうと唇を開きかけ、やがて諦めたように肩をすくめて黙り込んだ。やり返せばやり返した分チェーザレから罵詈雑言が飛んでくるだけだと知っているのだろう。
 肌を突き刺す緊張感が頂点に達しかけた瞬間、ドアがノックされた。
 俺はいても立ってもいられず椅子から飛び上がり、リビングを横切ってドアに飛びつく。
「あ……。えっと、どうも」
 目の前に立っていたのは、郵便配達人でもご近所さんでもなく、ロレンツォの相棒…もとい嫁でも妻でもなくて、世話役のアレウスだった。
 彼はどこか気弱そうな微笑を浮かべると、大事そうに両手で握り締めた鍋をこちらへと差し出す。
「えっと、その、ありがとう」
 感謝の言葉を絞り出し、回れ右をし戦場へと舞い戻ると、アレウスの姿を見たチェーザレがニヤリと笑い、それから父親の横顔を穴が開くほど見つめる。
「手料理持って来るなんて良く出来た嫁さんだな」
「…………ああ」
 曖昧に相槌を打ち、そのままロレンツォは押し黙る。何となく顔が赤くなってるような気がしたけど、気が付かないふりをして、俺は受け取った鍋を火にかけようとキッチンへ急ぐ。
 蓋を開けると、野菜をごろごろさせた真っ白なシチューが並々と注がれていて、忘れかけた空腹が頭をもたげる。
「美味そうだな」
 待ての出来ない大型犬が横から覗き込んでくる。何か食べてる間は静かになるから、早く温めて、それで……。
 長い団欒の予感に、ほんの少しだけ胸が高鳴った。

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