ジャンル:世界樹の迷宮 お題:楽しい母性 制限時間:30分 読者:84 人 文字数:1698字 お気に入り:0人

百億光年の孤独


「美味しい?」
 尋ねると、一心不乱にクッキーを咀嚼しながら少年がぷるぷると頭を上下に振る。膨らんだ頬は餌を溜め込んだリスによく似ていた。
「そう」
 美味くても不味くても、これは貴方のために買って来た代物なのだから、完食してもらわないと困るのだけれど。
「たくさんあるから、全部食べてもいいんですよ」
 言うなり、少年はぱっと瞳を輝かせ、並べられた色とりどりのクッキーを二枚、三枚と鷲掴みにすると、まだ先程口に入れたクッキーを飲み込んでいないというのに、口内に放り込んだ。
 ぼろぼろと溢れた破片がテーブルに散らばり、体温で溶けたチョコチップが指先にへばりついている。
「先生が来るまでお利口にするんだよ?」
「うん」
 マリアの言葉に、少年は噛み砕いたクッキー片が見えるのも構わず、大声で返事をする。こめかみが痛み、眼球が溶け落ちそうになる。
──子供は嫌いだ。礼儀知らずで汚い子供は特に。
「あーあ。あたしも子供欲しいなぁ」
 子供が欲しい? 欲しいとか作りたいとか持ちたいとか、まるで所有物のように言うのね。
「マリーなら良いお母さんになりそうですね」
「そう? ほんとにそう思う?」
 どうかしら。貴方には子持ちの主婦よりも洗濯女程度がお似合いだと思うけれど。
「はい。マリーみたいに元気で綺麗なお母さんがいたら、きっとみんなに自慢しちゃいます」
 そうかなぁ、などと顔を赤くして照れ隠しに頬を撫で擦るウォーロックをちらりと見やり、私は少年へと視線を戻した。
 ミルクを飲み下し、真っ白になった口の周りを手の甲でごしごしと拭き、またクッキーを掴んで口に押し込んで嚥下して、ミルクを飲んで。
 こんなくだらない生き物を持つくらいなら、死ぬまで一人で生きていた方がよほどマシだろう。もっとも、私の壊れた腹では子供なんて宿せはしないけれど。
 一度だけ、たった一度だけ子供なんていらないと他人に零したことがある。
 その時に、他人の子供だから鬱陶しく感じるのだと説かれたのを今でも覚えている。自分の子供なら可愛いものよ、何をしたって愛せるの、なんて。
 それが真実なら、私の母はなぜ私を男の家に連れ込み、好きなように体を弄らせたのだろう?
 愛しているから何をされても許せるというのなら、愛していれば何をしても構わないのだろうか。それが我が子を生涯苦しめ、女としての機能を失うようなことであっても。
「すみません」
 柔らかな声が聞こえ、ふっと顔をそちらに向ける。
 薄い水色の髪をしたルナリア男がにこやかな笑顔を浮かべ、小さく会釈した。
「ああ、無事に見つかって良かった……。本当に助かりました」
「せんせぇ!」
 "先生"の姿を目にした瞬間、少年が椅子から飛び降りて彼の下へ駆け寄り、チョコレートで汚れたままの手を腰に回し、きつく抱き締める。
「迷子にならないようにと注意したのに、全くこの子ときたら」
「気にしないでください。ほら、子供ってすぐどっか行っちゃうし!」
 そうね、すぐに遠くに行って帰らなくなる子供もいれば、自ら親元を逃げ出す子供もいるでしょう。この子はそうじゃないみたいだけど。
「ご迷惑をおかけしませんでしたか?」
 青い瞳が私を見つめる。底の知れない深く、深海を思わせる暗く光のない瞳。
「──ええ、とてもお利口さんでしたよ」
 答えながら、私も彼を見据える。同じにおいがする。自ら陽射しを遮断し暗闇を産み出して、その穴の中で地上を見上げて、こちらを見下ろしもしない人々を嘲笑する生き物の瞳。
 彼もまた、世界中の何もかもを馬鹿にしておきながら、誰か誰かと叫んでのたうち回る愚か者の瞳をしていた。
「そうですか」
 交差する眼差しをそらして、彼が少年の黒髪を撫でる。薄い唇に微笑みを浮かべたまま。
「優しいお姉さんに遊んでもらえて良かったね」
「うん」
「じゃあ、帰ろうか」
 踵を返し、ひょろりとした背中と小さな背中は雑踏へと消えて行った。
 あの生き物には帰る家があるらしい。私にはそんなもの無い。同じなのに、同じではない。
 やっぱり、私は独りぼっちだった。

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