ジャンル:メギド72 お題:死にぞこないの本 制限時間:30分 読者:168 人 文字数:1318字 お気に入り:0人

アンドラスさんなんか怖い話して

 アジトに集ったメギド達は、暇なときはしばしば集まって夜まで話し込んでいる。
 いやむしろ、時計の針もてっぺんを越したころには、「たむろしている」と言い表すほうが正確だろう。
 もう誰の席も誰の皿、誰のコップもうやむやになり、この上なく混とんとした光景が繰り広げられることも少なくはない。
 飲める者たちはみな酒が回っていて、収集がつかなくなっている。
「おぅい、アンドラス」
 夜になってようやくアジトに戻ってきたアンドラスは、通りすがって初めてにぎやかさに気が付いたのだろう。いつものとおり、張り付けたような、それでいて人懐っこいような不思議な笑みを向けた。
「やあ、にぎやかだね?」
「お前、なんだその染みは。こぼしたのか」
「はねた」
 なんでもツボに入るらしく、ブネが思い切り笑った。そのまま椅子に腰かけ、なにやら書籍を読みだしたアンドラスを、ガミジンが横から捕まえる。
「おい、医者ぁ。何か話せよ、面白い話、あんだろ」
「……面白い話?」
「急にふられても、そりゃ無茶ってもんだろうよ。吟遊詩人でもないんだ」
「あんでもいい、怪談の一個や二個あるだろ、なぁ?」
 ずいぶん酔っぱらっているようだ。
「そうだね……俺には面白い話はできないけど、人から聞いた話なら、あるよ」
 アンドラスは苦笑しつつも、ゆっくりと話し出した。
「これは、そう、俺がまだメギドラルを追放される前の話なんだけど……」
「あぁ? メギドラル?」
「けっ……メギドラルが何だってんだよ。
 各々の表情に嫌悪やら嫌悪やらある種の懐かしさやらが走った。
「そういやお前、あの噂は本当なのか、あの……」
 ガミジンが少し黙った。
「片っ端から無断でメギドを解剖していたっていう……」
「いいや」
 ゆっくりと首を横に振ったが、続く言葉は順接だった。
「”協力”してもらっていたんだ。と思う。全部じゃないけど、いろいろと条件を付けてね。そのころ俺はいろいろ”なし”で試すのに夢中で……。ある日、手術台に拘束されたメギドの一人が言うんだ。”これから面白いことを話すから、面白ければどうか殺してほしい”って……それで俺はしばらく手を止めて、彼が話している間だけは、じっと魅入るんだ」
「話に?」
「脳を走るパルスが地図みたいにきらめいていた」
 笑っていたメギド達も、急にぞくぞくとした寒気が走ったらしく、酒をあおったりしていた。
「比喩なんだよな?」
「彼の話は面白かった。でもね、俺は面白いと思うたび、どうなっているのか仕組みを知りたくなるんだ。いったいどういう脳みそをしているんだろうってずっと考えていた。彼は、毎晩、それはそれはすごく面白い話を聞かせてくれたよ。けれどある日、どうしても喋れなくなった。俺は……敬意を表して、そうだな……楽にしてあげたんだ」
「その話って、嘘なんだよな?」
「嘘?」
 アンドラスはちらりと時計を見た。もうすっかり2日になっているが、昨日は4月1日だった。
「ああ、うん、そうだね」
「なんだよ、脅かしやがってよぉ」
「怪談を話せっていったのはお前さんだろうに……おい、そりゃ俺のコップだ」
「知るかよ、寒くて仕方ねぇんだ」

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