ジャンル:メギド72 お題:紅茶と円周率 制限時間:1時間 読者:154 人 文字数:1782字 お気に入り:0人

青空教室

 ソファーに偉そうに腰かけたフラウロスが、紙飛行機に折った問題用紙を飛ばす。紙飛行機がマルコシアスの肩をかすめる。
「ぎゃはは、惜しかったな」
「いけませんよ! しっかり学んでください! せっかくの機会なんですから!」
 メギドラルとヴァイガルドでは、それぞれ考え方も常識も違う。追放メギドたちのヴィータ社会へのなじみ方にはそれぞれ差異がある。というわけで、アジトではたまに手の空いた追放メギド達による青空教室が行われているのだった。
「俺別に頼んでないしー?」
「じゃあなんでくるんですか!」
「邪魔するのは楽しいだろ」
「おい、邪魔で見えねえんだけど!?」
「へっへ、悪い悪い」
 モラクスが声を荒げると、フラウロスはあっさり身をかがめた。机の上に足は乗ったままだったが。
 学級崩壊めいたこの光景も、微妙なバランスで均衡を保っている。
 要するに、割といつもの光景である。
「しっかしクソだろ、これになんの意味があんだよ」
「円周率は大事だよ~!」
 シャックスは教える側だ。事情を知らないものははじめ驚いたものだが、王立学院の生徒という肩書は伊達ではない。きらりとメガネ(伊達メガネだ)を輝かせて、黒板にチョークを走らせる。
「たとえばっ、直径25cmの1400円のピザと~、直径50センチ2800円のピザで、どっちがお得……とかとかネ!」
 黄色のチョークで超重要、と囲まれている。
「……どっちだ?」
 ソファーで昼寝をしていたガミジンがぼそっと言った。参加してはいないが、聞いていないようで聞いているようだ。マルコシアスは、思わずくすっと笑みを漏らした。
「わっかんね、どっちも食えばいいんじゃね?」
 フラウロスは暫く黒板をにらんでいたが、あっさりと匙を投げた。
「うわ、こいつと発想が被ったし!」
 モラクスが嫌そうな顔をする。それがまたおかしいようで、フラウロスが笑った。
「俺この席やだ。なあアモンー、席代わってくれよ」
「……」
「アモンったら!」
「「うるさい」」
 ウェパルとアモンの声がはもる。
「……静かにして。私は今本を読んでるの」

***

「それじゃあ、そろそろ休憩にしましょう。ピザの話を聞いてたらおなかすきました」
「それ、マルコシアスの都合じゃね?」
「やーっと終わりかよ。おい、紙飛行機、どっちが飛ぶか競争しようぜ。負けたら飯おごりな」
「私とですか? まあ、それも勉強の一つですしね……」
 なにも知識だけが勉強ではない。ヴァイガルド社会における生活も、立派な勉強の一つである。マルコシアスは意気揚々と三角の飛行機を折って「せいっ」と飛ばしたが、左右非対称の飛行機はへなりと軟着陸する。
「……よっわ!」
「うううううう……もう一回、もう一回です!」
「こういうのにはコツがあんだよ、教えてやんねーけど、ぎゃはは」

 読み書き、計算、戦闘訓練。アジトで行われている教室は割と多岐にわたる。

 アンドラスはそっと、落っこちたままの紙飛行機を拾い上げて丁寧に開き、折れ線を確かめた。勉強に関してはもっぱら教える側だが、常識に関しては学ぶ側でもある。
「コツがわかったよ。重心の位置が重要なんだ、つまり……こうだ」
「おっ、挑戦者かあ!? 受けて立つけど!?」
 アンドラスの紙飛行機は目論見通り、すうと風に乗っていく。が、一番飛ばしたフラウロスのところまではいかなかった。
「駄目だったか」
「へへっ、やるじゃん? ま、俺のほうがスゲーけど」
 フラウロスの紙飛行機を、無骨な紙飛行機が追い越した。
「あっ、なんだよ!? 誰だ?」
「あんまり調子に乗るなよ、寝れねェじゃねえか」
 起きだしてきたガミジンだ。
「おい、何か汚い手使ったろ!?」
「使ってねえ……こんなんでズルしてどうすんだよ」

「馬鹿みたい……男ってみんなああなの?」
「うーん、密集してるだけなんじゃないかなかな?」
「疲れました……久しぶりに疲れました……家に帰ったときみたいです」
 遠目に眺めるシャックスとウェパル、割と満足そうにぐったりと椅子によりかかるマルコシアスのもとに、吟遊詩人がさっと割り込んむ。
「やあ、お嬢さんたち、紅茶が入ったよ」
「バルバルナイス~!」
「見直しましたよ!」
「見直されるほど普段の評価が低いのかな!?」

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