ジャンル:メギド72 お題:トカゲのダンジョン 制限時間:30分 読者:44 人 文字数:1531字 お気に入り:0人

トカゲ

 13階。
 今の戦力では、ここまでが限界だろう。ヴァイガルドを貫くようにそびえたち、果てしなくどこまでも続いていそうな塔。
 まだまだ終わりが見えないとはいえ、これほどまでの深部に至れたのは初めてのことだ。
 ここに来るに至って、すでにメギド達の大半は退却している。最も、塔の探索は、ハルマゲドンの阻止というよりは、合間に行われる演習の意味合いのほうが大きい。……余裕を見て退却しているため、重傷者もない。
 今回の作戦のリーダーとして前線に立ち、見事に探索隊を悩ませてきた強敵の眉間を撃ちぬいたマルコシアスは、ふうと珠のように浮かぶ額の汗をぬぐった。戦闘の様々で汚れているが、晴れやかな顔をしている。それは仲間たちも同様で、しかし、やはり探索が成功した日には、満足感というか、充実感というものが漲っている。

 階段を降りるまでが探索だ。
 撤退命令を受け、良い報告ができるだろうと意気揚々と戦果を抱え込んだメギド達は、ふと見覚えのない階層に至って足を止めた。
「どうした?」
 殿を務めていたガープが、前方を行く者たちに声をかける。視線だけは、じっと油断なく背後を守っていた。
「ここはどこでしょうか?」
 マルコシアスがつぶやく。
「んだこりゃ……見てねえな」
 あたりを確認したブネにも、またその階に見覚えはなかった。本来であれば蹴散らしてきた幻獣の死骸の一つや二つあるはずだが、そこには全く、何もなかった。
「おい、迷ったんじゃねえか」
「マジかよ、まずいんじゃねえの?」
「ま、出られないってわけじゃないさ。今まで戻れなかったことはないわけだし」
 これが一番最初の「戻れなかった事態」かもしれないでしょ……とは、ウェパルは言わなかった。バルバドスの言葉には、大いに希望的観測が含まれてはいたが、本人は計算して言っているわけだ。事実、やや険を増した空気はいくつか和らいでいた。「だねだね!」と、頷いているシャックスはたぶん本気で言っているのだろうが。
「早く水浴びしたいわね……」
 とげのある言葉を飲み込んで、ウェパルはあたりを調べ始めた。警戒を行う仲間を除き、各々がそれに加わる。
(このまま閉じ込められるということはないと思うがな……)
 ガープは見張りをしながら、ちらりと壁をねめつけた。
 「塔」の内部はなかなか複雑な作りになっていて、入るたびに微妙に様子を変える。また、人工的で規則的なばかりに自分たちの位置も見失いやすい。壁を叩くと、塔はゴンゴンとこっちの事情も知らないように高らかな音を鳴らした。
 蹴飛ばしたくなるくらい軽やかな音だ。
 暫く辺りを調べていたガープの目の前を、不意にトカゲが横切っていった。ただのトカゲだ。だがどうも気になって、ちらりと追う。視線の先には、ちょうど、がれきに埋もれた下への階段らしきものがあった。
「おい、こっちになにかあるぞ」
「おっ、階段かい?」
「お手柄お手柄!」
 舌打ち交じりに仲間たちを先にいかせながら、トカゲを探した。だが、小さな影はもうすでにいなかった。
「おい」
 呼び止めると、怪訝そうにブネが振り返った。
「いや」
 問題ないと伝えれば、そうか、と階段を降りていく。ガープは既視感の正体を思い出した。この石積の階は、少し在りし日の闘技場に似ていた。

 剣闘士として過ごしている合間、生き物を飼う余裕など到底ありはしなかったが、トカゲと出くわすこともあったかもしれない。
 なんとなく構ってやって、叩きだされるところをそっと救ってやったこともあった。
 うんざりだ。そう思ったが、一度振り返る。トカゲはやはりいなかったが、代わりにちろちろと備え付けられた松明の火が揺れていた。

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