ジャンル:刀剣乱舞 お題:箱の中の深夜 必須要素:「ひょえー」 制限時間:30分 読者:51 人 文字数:1275字 お気に入り:0人

真昼の夜 ※未完

鶴丸の部屋には驚きが詰まっている。などと皆一様にして同じ言葉を発した。だから御手杵はつい、好奇心をむきだしにしてしまったのだ。
いけないことだということは頭で理解している。背徳感からか、罪悪感からか人の身を得た体躯の真ん中がいつも以上にドクドクと音を鳴らす。痛いぐらいだ。しかし、こうして部屋の主に無断で忍び込んでしまったのだからどう足掻いても手遅れである。
鶴丸国永の部屋には数度招かれたことはある。片手で数えられる程度だ。こう忍び込むのは初めてであるけれど。
印象は意外と殺風景。物で溢れているという予想に反して、物はほとんどない。招かれるたびにそう思っていた。忍び込んだいまも印象は変わらない。
だから、鶴丸の部屋には驚きが詰まっているなど口を揃える仲間たちの言が分からない。きょろきょろと視線を彷徨わせても、散らかってなどおらず座卓も綺麗なものだった。書類は載っていないし飲みかけの湯飲みも置いていない。
ならば、押入れか。
かといって、他刀の私的な空間を覗き込むのは気が引ける。ここがやめ時だろうという自身と、鶴丸は出陣中でまだ帰ってくるには時間があるのだから軽く覗いてしまえという自身がせめぎあう。ううむ、と唸ってしまった声がいやに大きく聞こえる。ばれなきゃいいのだ。ばれなきゃ。いや、でも、もしばれてしまったら?
鶴丸は礼儀を重んじるし、好奇心旺盛だといっても他刀の部屋に忍び込んでまで覗くような刀ではない。はっきりと自身が叱られて向こう一週間は口をきいてもらえない未来が容易く瞼の裏に見えた。止めよう。そうしよう。
押し入れにかけた手をひっこめた、その時だった。

「やあやあ、我が恋槍殿は我が部屋で何をしていらっしゃるのか」

楽しそうに歌うように決められた台詞詠む芸者のような声音が、御手杵の後ろから降ってきた。
あ、俺、折れたな。瞬時にそう思うだけの判断はあったが、恐ろしくて振り向く勇気はなかった。思わず「ひょえー」と普段よりもはるかに間抜けな音を口にするぐらい。驚いた。凄く驚いた。

「俺の好きな顔を見せてはくれないかい」

どうする? どうすれば、怒られない?
などという思考がぐるぐると御手杵の脳内を回っているが、すでに手遅れだということは伝達されていない。すでに手遅れという前提条件からどうすれば、罪状が軽くなるかを考えた方がよっぽど建設的だったが、そこまで回る余裕はなかった。
予想の数十倍速い帰還を疑問に思う余裕もない。

「御手杵」
「う、うえー!ごめん!鶴丸、ごめんなさい!」
「は」

素直に謝ろうそうしよう。押入れは幸いに悩んでいて開けてはいないし、見てもいない。無断で部屋に入ったということだけだ。確かに押入れの襖に手はかけた。それだけだ。まだ怒られても、軽いはず。判断してからの行動は早かった。
鶴丸を視認する前に畳に頭を付けた。いわゆる土下座だ。勢いをつけすぎて鈍い音をたてたが気にしない。

「部屋に入ったのは本当に悪かった!!!押入れは見てない!!!!」
「お、おい。土下座は望んでないんだが」

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