【ゲー主♀】それは愛が付くとは程遠い
朝露滴る緑の絨毯が屋根一面を覆い隠し、朽ちるか朽ちないかの瀬戸際で鬩ぎ合っている石柱の間を潜り抜け、昔は人の活気で賑わっていただろう廃れた町並みを歩く。耳を澄ませば聞こえてくる賑やかな声が透明な姿で駆け回る。
「(忘れられた町)」
物悲しさが漂うこの町は人の世界から離れたかったので都合がいい。石畳の隙間から緑が元気よく伸びる街道を歩きながら雨風が凌げそうな場所を探す。此処は廃れる以前如何やら温泉街で賑わっていたらしい。長期の逗留者たちが足繁く通っていたというが。
「病気や怪我が治ったら来る必要はないもんね」
もしかしたら治る前に如何にかなってしまったか。
一軒一軒覗いては崩落の危険性が無い建物を探す。と言ったものの中々難儀なものだった。何処も彼処も朽ちて荒れて野生のポケモン達の棲み処になっているのが殆どで目ぼしいものは見つからない。
街道のどん詰まり。最後の最後で崩落の危険性もない野生のポケモン達も棲み処にしていない良さそうな建物が見付かった。かなり妥協に妥協した良物件は歩くのもやっと、されど年甲斐もなく強がりを見せる死にぞこないの顔を顰めさせる威力を持っていたようだ。
コツコツ。石畳を叩く杖の音に苛立ちを感じる。
「このような場所で過ごさねばならないとは。……先が思いやられる」
「贅沢言うなら付いて来なければいいじゃん」
後ろでなんかギャーギャー講釈を垂れ流しているけど無視。躓きそうなものを足先で蹴っ飛ばして伸びた蔓や外から生息域を広げる枝を鉈で切り落とす。開けっ放しな窓はその内如何にかしよう。砕けた窓ガラスも落ち着いたら片付けて部屋の中をもう少し過ごしやすく、
「(この匂い)」
追い付いてきた長身お化けを尻目に更に奥へ進めば匂いの源が現れた。
源泉かけ流しの贅沢。ただメンテナンスが諸事情により大分滞っているお陰ですぐには入れない。浮いている緑やら茶色やらを掬い取って、底や周囲に溜まってるヘドロや苔を掃除してやっとか。入れるまでどのくらい掛かるんだろう。
口許に軽く握った右手を添えあれやこれや物思いに耽っていた時、後ろに聳え立つ塔の気配に思わず身を強張らせた。
「これはこれは。貴女にしては随分いじらしい反応をしますねぇ」
悪意の影に見え隠れする違う色。欠けた赤い瞳が濁り剣呑とした眼差しで見下ろしてくる。
「それで私を睨んでるおつもりですか?」
無遠慮に伸びてきた黒く大きな手が頬を撫ぜそのまま後頭部にそっと回された。
「震えてしまって……可愛らしい」
わざと耳元でねっとり囁いてうなじに跡が残るように口付けてきた。小さな痛みと離れる際、聞こえたリップ音に気分が悪くなる。
ならば──。
「いっぱい意地悪して?」
極力期待した目を向けて言った。
すると、一瞬目を瞠ったかと思えば喉奥で笑い声を押しとどめて此方に軽くしな垂れかかってきた。
そうかいそうかい。楽しそうで何よりだよと言ったら、また笑われた。解せない。
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