ジャンル:カルジュナ お題:遠いふわふわ 制限時間:30分 読者:161 人 文字数:3315字 お気に入り:0人

【カルジュナ】洋裁専攻xモデル志望14

放課後、三人は短大の本棟入り口で、ネロの言う「迎え」を待っていた。孔明もアルジュナから声をかけたのだが「忙しい」とけんもほろろに突っ返された。確かに孔明はアルジュナたち短大の者だけではなく、外部講師としても多くの学生を教えている。人間としての営みに組み込まれている以上、責任感の強い孔明が、それらを投げ出すところは想像に難い。
しばらく待っていると、専門学校の方から近付いてくる人影が見えた。
その人物は三人の前で立ち止まり、にこりと笑った。

「こんにちは! あなたたちがネロの言っていたモデルさんたちですね? 案内役を押しつけられた沖田、といいます。もちろん、あなたたちに否はありませんからご安心を」

爽やかに言う沖田に、三人の空気が一瞬だけ変わる。名乗った、ということは沖田にも記憶がないということでほぼ確定だろう。ナイチンゲールは、ではお願いします、と言葉少なに沖田を誘導した。
沖田は三人の誰がカルナのモデルとして申し込みをされたか、という点を詳しく知らなかったらしく、移動しながらもしきりにその質問を繰り返してきた。

「へぇ! あなたがあのトルソーの君、というやつですか。いやはや奇想天外。これには沖田さんもびっくり是非も無し! 中庭ロマンスの渦中にいるにしては、どうして王子様のようではありませんか」
「私にあの方の胸中は測りかねます」
「ふむ、両隣の花にも興味が無い、とでも言いたそうですね。食傷気味で?」
「あらまぁ、花は花でも手折られるほどか弱くないのよ。花の恐ろしさを知っているのだわ、彼は」

マリーが微笑みながら沖田の顔を覗き込む。
はは、と沖田が笑い、専門学校で最も大きな学棟エレベーターへ導いた。

「それは失礼。確かにそうですね、見目の美しさだけでは生きていけない。私たちが居るのは、そういう場所でした」

エレベーターを下り、特別準備室、というプレートの掲げられたドアを開ける。中に入ると、ヘアサロンを連想させる、横並びの化粧台が見える。モノクロで統一された化粧台の前で、ネロが椅子に座っていた。

「よく来たな、褒めて使わす!」
「お褒めに預かり恐悦至極というところで、このまま帰路につかせていただければと思うのですが」
「それはならん」

ネロは椅子から飛び降りるようにして立ち、部屋の奥に居たラーマを呼ぶ。人数は少なく、本当にこのメンバーだけでアルジュナに服を着せるらしい。

「これを着てみせよ」

ネロがそう言ってマネキンごと提示したそれは、一見、普通の形をした燕尾服だった。しかしネロが上着の隠しボタンを外し、裏地を見せると、そこには薄い、夜の帳を形にしたような薄いヴェールが幾重にも畳まれている。ふむ、とアルジュナは一つ考えるようにして呟き、マリーとナイチンゲールが前に出る。

「誰かを輝かせるのは久しぶり! とっても楽しみだわ!」
「あなたがラーマですね。よろしくお願いいたします」
「あぁ。君たちは? 彼と同じ学部か?」
「学部は違うわ。……私はマリー。彼女はナイチンゲール。どうぞお好きに呼んでくださいな」

マリーは今まで抱えていたショルダーバッグを下ろし、アルジュナに手で化粧台を促す。
アルジュナがマリーに従って鏡の前で腰掛けるのに、ラーマは面白がるように眉を上げた。しかしそれをおくびにも出さず、ラーマは化粧用のエプロンをアルジュナの首元に回す。

「注文はあるか?」
「いいえ、お好きになさって下さい。私のことは動くだけのトルソーとお思いに」

アルジュナは先ほどから言われ続けている自分への別称を揶揄するように言った。ラーマはそうか、と言ったきり、マリーの持ってきた化粧道具たちから厳選したものを手に持った。

不意に、バタンとドアが乱暴に開く。

「聞いたわよ、あのモデルが来ているのですって?」

開いたドアを開け放しのまま入ってきたのはラベンダーの髪色を揺らす、少女と見紛う容姿の存在。エレナ・ブラヴァツキー。アルジュナは彼女のフルネームを脳内に呼び出した。
エレナは腰掛けたアルジュナに大股で近付き、椅子をぐるりと回してアルジュナを真正面から見つめた。じ、と観察してくる大きなアーモンド形の双眸。

「あなたが、カルナのお人形さん? それとも花嫁?」
「またあの方のお名前を? 随分と愛された方なのですね」
「愛されている、ということと、愛したい人がいる、というのは必ずしもイコールではないわ。貴方、アルジュナというのね? 聞けば、孔明ゼミのお気に入りっていうじゃない。はじめまして、私はエレナ・ブラヴァツキー、洋裁専攻の二年よ」

カルナの名前への動揺は無かった。エレナとカルナは同陣営で戦ったこともあり、カルデアでもよく会話をしていたのを覚えている。それよりも孔明の名前を出されたことが気になる。アルジュナという個人に向けられるベクトルとは別の何か。
エレナはアルジュナから顔を離し、踊るように距離を取った。五センチメートルのヒールを軸に、くるりと回る。

「あっちのゼミは私たちの所と小競り合いが酷くって。ま、それも言い訳」

くふくふと笑うエレナは、今まで蚊帳の外にされていたネロへと顔を向ける。

「学外の人間を許可なく連れ込んだらダメよ。准教授が怒ってるの。彼も連れてきなさいって」
「なんだと?どういうことだ、余以外にもそのようなことをした輩は数え切れぬほどではないか」
「この子は『お手付き』だからじゃない? 学祭でのお披露目前にむやみやたらに愛想を振り撒かせるのはやめなさいってこと」
「その口ぶりだと、誰かがそう言ったのだな?」

そう、とエレナは頷く。アルジュナは、自分を置いて進む話をじっと聞いていた。
ベルトコンベヤーに乗せられた貨物のような、無機物になった気までしてきた。

「ジェロニモ先生が、ね。彼のゼミのロビンフッドって居たじゃない? 彼を介して私に伝言を頼むんだから、相当!」

エレナの言葉に反応したのはマリーだった。アルジュナの肩をそっと後ろから掴み、その肩越しにエレナをじっと観察している。アルジュナはマリーに、小声でどうしました、と訊ねたが、すぐに返事は返ってこない。しかしエレナとネロとで言葉が交わされる合間を縫って、そっとアルジュナの耳元へ言葉を囁く。

「……キャスターよ」
「え?」
「レオナルド・ダ・ヴィンチさん、諸葛孔明さん、ジェロニモさん……皆、この世界で『先生』をしている『キャスター』だわ」
「まさか、それだけでは」

アルジュナは咄嗟に否定した。あまりにも突拍子もなく、予想材料も少ない。しかし、記憶の有無を予測する材料はそもそも少なすぎるぐらいなのだ。
確かに先ほどの三名は全員が講師、または准教授という『教師』である。更にそこに不随する、魔力含有量と、布陣作成能力を備えた、キャスターというクラス。
加えて、『その教師直属の学生が記憶を有している』としたら。孔明のゼミのマリー、ナイチンゲール、アルジュナ。ジェロニモのゼミのロビンフッド。辻褄は、一応、合致する。

「つかぬことをお伺いしますが」

アルジュナは唐突に口火を切る。

「カルナ、という彼ですが、ゼミはどちらに? 今のお話ですと、専門学校にもゼミがあるのかと」
「彼? 彼はまだ無所属だったはずよ」

まだ、とは? アルジュナは脳内でのみ疑問を口にする。
ゼミ、というのは専門を学ぶために必ず所属する義務がある。それが免除されるのは一年次のみ。

「貴女と、同学年、でしたよね」
「えぇ。同じ作成チームよ」

ここが綻びか、とアルジュナは思い至る。
例えば、カルナがレオナルド・ダ・ヴィンチの直属のゼミ生であったとしたら、先程の仮説は棄却される。レオナルド・ダ・ヴィンチのゼミ生の席は空席。そして、カルナだけが無所属のままに浮いている。
あれは、本当にカルナだろうか。人間になったカルナ、とアルジュナは彼を定義づけてはいた。
しかし、予想以上に不確定すぎる、『カルナ』という存在に、アルジュナの背に冷たい何かが伝った。

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