ジャンル:テニスの王子様 お題:興奮した君 制限時間:30分 読者:58 人 文字数:1285字 お気に入り:0人

真夏

「ふーん、やるじゃん」
 そう言って、越前はラケットを左手に持ち替えた。この瞬間が一番ぞくぞくする。プロのテニスプレイヤーを本気にさせたことの証明だから。まだ夏本番には程遠いが、ゴールデンウイークは夏日で、行楽日和だそうだ。インスタグラムを見ると、友人たちは観光地の写真をアップしていた。いかにも涼しげな滝つぼや、水族館。水辺が人気みたいだ。対して、俺たちがいるのはいつもと同じコート。少し芝がはげた、いつものコートだ。別に、俺たちの家にあるハードコートでもよかったのだけど、今日の気分は芝だった。炎天下までとはいかない中途半端な初夏のこの日、この場所、ここにいる俺たちだけが真夏。二人だけの夏を共有する。
「でも、俺が勝つけどね」
 にや、と口角をあげて、あぁ、君にはその顔が一番よく似合う。負けるつもりはないんだけど、その顔には負けてあげてもいいかな、とか思ってもいないことが脳内によぎる。負けるつもりはない、勝てるかどうかは置いておいて(相手はプロだ。遊び半分でテニスを続けている俺とはわけが違う)、ただでは負けてやるつもりはない。
「昨年の全米チャンピオンが、一般人に負けるつもりなら、話は別だけど?」
 こうやって挑発すれば、いつもはひどくクールな越前のホットな部分がむき出しになる。日本語を話している時の彼が本性を見せるのは、テニスで本気になったときだけだ。日本のメディアで放送されている、英語を訳した字幕は、普段の越前、そう日本語でも英語でもない別の人間みたいな口調になっていて、ひどく滑稽だ。あれは訳者が悪いね、きっと日本にいる友人たちも妙にかしこまった日本語をしゃべらされる越前を見て笑い転げているのだろう。
「負けないって言ってるじゃん!」
 突然のするどいスマッシュはずるい、と言ってしまえるほど、俺は弱くない。十分とれたはずのボールをリターンできなかったことは素直に悔しい。向こうで、帽子の陰に隠れた目が笑っている。これだよ、俺がやりたかったテニスは。
「こんなこと言いたくないんだけど」
 ボールを弾ませながら、滴る汗をぬぐうこともなく、俺は呼びかける。打ち返す低い姿勢をとったまま、越前は静かにこっちを見ている。俺たちしかいないコートは、会話とボールの音しかしない、ひどく静かな空間で、張り詰めた何かがはちきれるのを待っていた。
「俺は、君と戦うために生まれてきたのかもしれないね」
 高くトスを上げて、全身の力を右腕に集めるような感覚のまま、打つ。ストリングを、グリップを、手のひらを、腕を伝わって、心臓まで届く衝撃に勝る快感はない。
「なに? 今更気づいたの?」
 あんたは俺と戦うために生まれてきたんだよ、と定義するかのように、王子様はネット越しに目を細めた。コートの中で共有した真夏が終わらない。
「俺だって、あんたと戦うために生まれてきた」
 君がそういうことを言うと、本当みたいじゃないか、と沸騰する脳みそが思った。笑いが止まらない。口角が上がる。興奮は冷めない、夏も終わらない。
 どこまでいっても真夏。俺たちは、そうだろう?

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