ジャンル:A3 お題:茶色い「えいっ!」 制限時間:1時間 読者:66 人 文字数:2973字 お気に入り:0人
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家路 ※未完

プツン、と音がした。それは、心が切れる音だった。
目の前ではバツの悪い顔をした姉。唇を噛み締めて顔を歪めている。今にも泣き出しそうだ。

「アンタが悪いんじゃないっ!こんなとこにゲーム置きっぱなしにしてるからっ」
「………」

確かに、居間の床に携帯型ゲーム機を置きっぱなしにしていたのは俺だ。学校から帰って速攻でゲームをしようとしたら、母親にまずは手を洗えと言われて、渋々従って床にゲームを置いたのだから。
でもだからって、踏み潰して壊しても良い理由にならない。ちゃんと注意していなかった姉だって悪いじゃないか。バリバリにヒビが入って割れてしまった画面。これじゃあ、ゲームが出来ない。

「一体何の騒ぎ?」

姉の大声に気づいたのか、母親がキッチンからやって来る。めちゃくちゃに壊れたゲーム機と、怒り心頭の姉。そして呆然と立ち尽くす俺。

「至がこんなとこにゲーム置いとくから…、」
「えぇっ?」

怒られると思ったのか決まり悪そうな姉の言葉に、母親は一層驚く。

「怪我はない?大丈夫?」
「えっ、う、うん…」

慌てて姉の足を確認する母親に、俺も姉も驚いた。
怪我がないのを確認すると、目を吊り上げた母親が俺の方へ振り向いた。

「謝りなさい、至」
「……え…、」
「こんなとこにゲームを置きっぱなしにする方が悪いでしょ?怪我したらどうするのっ」

普段あまり大声を上げることのない母親が、俺に向かって怒鳴りつけている。驚き言葉を失くした俺は、ただ息を飲むことしか出来なかった。
母親の後ろで、姉が勝ち誇った顔をしている。

確かに俺も悪い。でも一方的に怒って欲しくなかった。一言、俺にも心配する言葉が欲しかった。
俺がゲームを大切にしてること、母さんも知ってるはずなのに。

グッと唇を噛み締め、熱くなった目頭から溢れそうになるものを堪える。
そのまま、俺はその場を駆け出した。走るのは得意じゃないし好きじゃないけど、全速力で家を飛び出した。
あの場に、いたくなかった。大切なものを壊されて傷ついた心に、更にヒビを入れてくる場所になんて、居れるはずもない。



どれくらい走っただろう。多分、一生分走った。気が付いたら、家から結構遠くにある川原まで来ていた。
立ち止まり、川を見下ろす。辺りには誰もいない。たくさん走ったから、一気に汗がドッと吹き出た。酸素を取り入れようと心臓と肺が忙しなく稼働しているのがわかる。鼓動がうるさい。息を吸い込む度に肺がキリキリして痛い。
土手を降り、適当な場所に腰を下ろす。川の冷たさを含んだ風が、ひんやり俺を包んで気持ち良い。日が傾いてきたため、オレンジ色を多く含んだ日差しが水面をキラキラ照らしている。

さて、この後どうしようか。家には帰りたくない。このまま、ここで一晩過ごそうか。そして親がいない時間を見計らって帰って、自分用の通帳と着替えを持ち出して、遠くへ行こうかな。姉の支配下にない、自由なところへ。

「えいっ」

そんなことをぼんやり考えていると、甲高い声が聞こえてきた。続いて、ぽちゃんと水が跳ねる音もした。
声の聞こえてきた方へ顔を向けると、少し離れた所に小さな背中が見えた。誰もいないと思っていたが、どうやら先客がいたらしい。
まだ随分幼い。年長か小学一年生か、それくらいの背丈の子だ。
辺りを見渡しても、大人の姿はない。どうやらこんな小さい子が、一人で川へ来たようだ。まだ幼いのに、親は放任主義なのだろうか。川に一人だなんて、危ないだろうに。

「何してんの」

内心少しヒヤヒヤしながら、小さな背中に向かって話し掛けた。
振り向いた子は、キョトンとした顔で俺を見上げる。あどけない顔が子どもらしくて、可愛らしかった。

「えっとね、石なげてる」
「石?」
「そう。ぴょんぴょんって、いっぱいはねるヤツ!」
「あぁ、なるほど」

ニコッと笑った顔は花が咲いたように眩しくて可愛くて、釣られて俺も笑ってしまった。
その子は再び、近場にあった石を拾っては投げている。だが、水面を跳ねることなく一回で沈んでしまった。それもそうだ。そんな形が歪で大きい石ではすぐに沈んでしまう。

「おかしいなぁ」

唇を突き出して首を傾げるその子に、俺はクスクスと笑ってしまった。
クルクル変わる表情は見ているだけで笑みが漏れてしまう。

「石が悪いよ。もっと平べったくて薄い石を選ばないと」
「そうなの?」
「そうだよ」

キョロキョロと自分の周りにそれらしい石がないか探し始めた男の子。しかしどうやら該当する石は見当たらず、すぐに探すのをやめてしまった。
子どもは飽きっぽいものだから仕方ない。

そのままタタッと駆け出した子の後を追う。何だかこのまま放っておいて、水難事故にでも遭ったら困るし。
土手近くに自生している原っぱにしゃがみ込んだ男の子は、何かを一生懸命探し出した。

「何探してんの?」
「んー、よつばのヤツ」
「四つ葉のクローバー?」
「そう、それ!」

俺も並んでしゃがみ込み、草わらを掻き分けた。生憎四つ葉は愚か、クローバーすらない。タンポポしか見当たらない。

「よつばのをみつけるとね、ねがいがかなうんだって」
「へぇ、何を願うの?」
「えっとね、このまえとおくに行っちゃったともだちに、またあえますようにって」

寂しそうな横顔が、夕陽に照らされている。さっきまで、あんなにあどけない子どもらしい顔をしてたのに。

「そっか、会えると良いな」
「うん。お兄ちゃんはなにおねがいするの?」
「うーん、誰もいないところで、好きに生きていけますようにって」
「なんで?だれもいないのさみしいよ?」

キョトンとした顔で俺を見上げる顔。ふっくらした頬っぺたは薄紅色に染まっている。
最もなその子の言い分に、俺は苦笑いをしてその子の茶色い髪の毛をくしゃくしゃにかき混ぜた。柔らかくて指通りの良い髪の毛だった。

「姉がいるんだけどね、喧嘩したんだ」
「おれもしょっちゅうけんかするよ?」
「そうなの?」
「うん。今日も弟におれのプリンかってにたべられて、でもお兄ちゃんだからがまんしなさいってお母さんにおこられて、でもムカついたから家出したんだ、おれ」

思い出して怒りがこみ上げてきたのか、プゥと頬を膨らませている。思わず指でつつくと、プッと息が漏れる音がした。
何と似たような理由で、俺もこの子も家を飛び出したらしい。俺よりも理不尽に怒られたこの子は、きっと俺に比べてずっと怒りが深いに違いない。

「お前、名前は?」
「つづるだよ。お兄ちゃんは?」
「俺は至」

舌ったらずにつづると名乗った子。名前も何処となく似ていて親近感を覚えた。

四つ葉のクローバー探しにも飽きた俺たちは、並んで腰を下ろした。眼前には夕陽で真っ赤に染まった川が流れている。

「いたるくんは、おうちにかえらないの?」
「うん」
「でもここにいてもおなかすくよ?」

ポツンと零した問いは何とも頼りなかった。どうやら、つづるは早くも家出にさえ飽きてしまったらしい。
確かに腹は減った。ここにいたって、空腹は満たされない。

「家、帰る?」
「……うん」
「じゃあ送って行くよ。家、何処?」

あっち。

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