ジャンル:戯言シリーズ 兎軋 お題:苦い町 制限時間:1時間 読者:104 人 文字数:2308字 お気に入り:0人

よその犬

 なんだか急に寂しくなって犬を飼いたくなったからペットショップについてきてくれないかと滋賀井に声を掛けられて面倒だなと思いながらも、あの滋賀井に誘われるなんてなかなかあることではないから興味を惹かれて言われたとおり大型ショッピングモールのなかにあるペットショップにやってくると滋賀井はおらず式岸がいた。
「なんでだよ」
「いやいやお前ばっかり被害者みたいな言い草をするもんじゃないよ式岸。俺だってすっかり騙されて無駄足踏んだ被害者なんだからね、そんな目で見ないでくれよ。優しいお前のことだ。滋賀井にお前しかいないとかなんかうまいこと言われて付き添ってやったんだろう? 可哀想だなあ俺も可哀想だろ? ほら可哀想がってくれよ」
「絡んでくるな面倒くせぇ」
 八つ当たりよろしく式岸の神経を逆撫でするように言えば、式岸はぷいと避けるようにしてペットショップの中に入っていってしまった。滋賀井がもしかすると先に入っている可能性もなきにしもあらずか、と思ったが、駐車場への出口を俺が塞いでいたから避けるようにして逆走した、のほうが正しいように思った。滋賀井に騙された同志、俺がてっきりとんぼ返りすると思ったんだろう。その間、ペットショップで時間をつぶそうと思ったわけだ。俺は式岸の後ろにまるで同行者のごとくつき従い、自動ドアを同時にくぐった。
「帰らねぇのかよ。いや、帰れよ」
「滋賀井のことだ。遅刻なんて日常茶飯事だろ? 少ししたら来るかもしれないじゃないか。あいつと違って俺はきちんと約束を守る誠実な男だからね。寛大な心でゆったり待ってやろうと思うんだよ。式岸くん」
「いちいちうるせぇな」
 ペットショップには大きく犬と猫のコーナーが分けられてあって、隅のブースにはハムスターや鳥類、魚や爬虫類も揃えられていた。こういうところには足を運ばないから、こういう生きものもペットにするんだなぁと感慨深い気持ちになる。
「滋賀井は犬を飼いたいと言っていたっけな。式岸、犬は好きかい。同類相憐れむというからな。いや、同属嫌悪か?」
「犬は凶獣だって話じゃなかったのか」
「おいおいチーターは猫科だぜ」
「それを言うなら俺は人間だ」
「鬼じゃなかったのかい」
 ガラスケースのなかを飛び跳ねる小動物は弱かった。値段のつけられた生きものはこぞってまぁるい小さな目玉をきょときょとさせて、見下ろす人間を不思議そうに見つめ返す。
「こんな弱くてちいさな生き物で寂しさがまぎれるものかね」
「同じ空間に生きものがいるというだけで寂しさは無くなるのかもしれないと考えるのは普通だろう。人間も生きものだからな。滋賀井は動物の方が一緒に生活するのには楽だと思ったんだろう」
 式岸は珍しく饒舌だった。人間の形を見ると、つい殺せそうだなと考えてしまうらしい殺人鬼には、それこそペットは寂しさを紛らわすちょうど良いアイテムなのかもしれなかった。今となっては滋賀井のやつが、本当に生活に寂しさを感じたのかどうかさえ怪しいものだが、式岸がペットショップにやってきたのはもしかすると良いイベントなのかもしれなかった。滋賀井のやつが、いつもの気まぐれで本当に犬が欲しかったけれど、雲の切れ間から太陽が出たからみたいな理由で適当に予定を変えてしまう可能性だって勿論あったけれど。式岸のやつに動物をあてがってやろうと思って呼び出して、滋賀井が予定をすっぽかしたからさっさと帰らないように俺という邪魔者を設置した可能性だってあった。そう考えると今の状況はまるで死線が頭に描く美しい設計図の如く完璧なそれだった。
 式岸もその可能性を想像したのだろう、人間を殺そうかどうか悩んでいるような顔で、じっとショーケースの中でぐうすか寝こける小さな毛玉を見下ろしている。滋賀井が式岸に動物を飼わせようとするのは何も親切心ではなくて、《一群》連中みんなが抱いている心配ごとへの布石だろう。式岸が殺人鬼としての一面を持っていることは死線をはじめ《一群》連中の暗黙の了解としていることだったが(もしかすると、勘の鈍い数名は気づいていない可能性だってあるが)式岸の厚い死線への信仰心を信ずるところと同時にこいつが死線の蒼を害さないかと言うことに関しては不信感を抱く点も多々あった。それを見せたそぶりは勿論一度としてないけれど――。我等の神にも等しい死線の安全と安寧を常日頃から祈る身からすれば用心に用心を重ねた方が勿論良い。
「君には家族がいるらしいけれど、やっぱり人間と暮らすのはストレスかい?」
 死線には家族がいない。《一群》にはそういう奴らも多かった。その中でも式岸には家族がいる、というのは一応全員が共有している情報だった。それは勿論殺人鬼の――だが。
「人間と一緒にいるのは勿論、なんらかのやりとりが発生する限り、衝突や軋轢はあるだろう。勿論、1人では味わえない喜びもある。それを面倒だと思うのも、苦痛だが喜びのある限りそれを選ぶ人もいる」
「お前は後者なわけだ。家族とは仲がいいんだね」
「普通だ」
 普通を何も分かっていないやつが、普通を知らない奴に普通だ、なんて言うほど無意味なこともなかった。そうかい、と俺は言ったけれど、お互い何も共有できていないことはあからさまにわかった。式岸も察しただろう。
 ころころ転がる無邪気な毛玉の生きものを見ながら、「そういえばペットは家族という表現もあるらしいね」と俺が言うと、「そんなに親しくなれるもんなのか?」と式岸は冷たく答えた。俺は俺たちと死線の関係を想像しながら、「言葉が伝わらないのは難しいよな」としか言えなかった。

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