ジャンル:にじさんじ お題:去年の町 制限時間:1時間 読者:57 人 文字数:1476字 お気に入り:0人

わたしの聖域

 この公園はさ、聖域なんだよ。
 ここには家族もいない。吹奏楽部の先輩も後輩も、劇団の仲間もいない。
 いるのは、無邪気な子供と、談笑するおばちゃんたち、そして阿呆な女子高生がふたり、木製のベンチに腰掛けているだけ。
 こうならべてみると、あまりのスケールの小ささにびっくりするね。

 転校してきた美兎ちゃんにそう話すと、美兎ちゃんは呆れと困惑を混ぜたような顔をしてわたしに言った。

「楓ちゃん、それは聖域と言うのでしょうか」
「言うよ!」

 わたしは美兎ちゃんの方を向いて、大きく腕を広げた。

「うちらみたいな年になるとさ、積極的に入ろうとはしないじゃん? でもさ、公園って誰が入ってきてもいいでしょ?」
「まあ確かに、そういう面はありますね」
「この公園はちっちゃいけど、そういう懐の大きいところが好きなんよ」

 うふふ。美兎ちゃんが口元を抑えて笑った。……こういうとこは清楚なのになぁ。

「楓ちゃんは、懐の大きいひとが好きなんですね」
「なぁーんでそういう話になるのぉ!」

 あははは! わたしのオーバーリアクションに、美兎ちゃんは大きく笑ってみせた。わたしもつられ笑いして、公園に阿呆な女子高生ふたりの声が響きわたった。
 ……大丈夫。はぐらかしたことはばれていない。

「楓ちゃんは……いいんですか。そんな聖域にわたしのようなサブカルクソムカデを入れてしまって」
「雑草イーターさんをお招きすれば、聖域がよりきれいになると思いましたぁー」
「喧嘩売ってんのかお前……」
「……くくくく」
「あはははは」

 わたしたちはまた、おなかを抱えて笑いあった。

 去年……といっても、数ヶ月前の、美兎ちゃんが転校してきた頃だけど、わたしたちは他人行儀な会話しかできなかった。
 わたしは、町の聖域に、誰も招かなかった。
 小さな頃、ここで友達と遊ぶことはあっても、中学からはさすがに公園を遊び場にはしない。
 それを逆手にとって、わたしは誰とも話したくなくなったら来る。ひとりで考え事をしたり、悩んだり、泣いたりする。

 そんなパブリックなプライベート空間に、聖域に、わたしは初めて、招待したのだ。
 変人委員長、月ノ美兎を。

 なんでって? そりゃあ……。

「ねえ、楓ちゃん」
「なに? 美兎ちゃん」
「わたしって、そんなに懐が広いですか」
「……えっ」

 呼吸が止まって、わたしの顔がみるみる熱くなっていく。

「な、な、なに言うてんの」
「わたし、時々頭がさえるんですよ」

 美兎ちゃんはにやっと笑って、ぐいと顔を近づけてきた。
 どく、どく。わたしの心臓が、演奏会の前みたいに暴れている。

「楓ちゃんって、ほんと裏表ないですよね」

 美兎ちゃんにだけは言われたくない。

「楓ちゃん、わたし、カマかけただけだったんですよ」
「……!!」
「そういう素直なところ……好き、ですよ」

 わたしは、金魚みたいに口をぱくぱくさせていた。
 ただ、わたしが金魚じゃなく犬だったなら……わたしの尻尾は、きっと、これ以上ないくらいぶんぶん振っていただろう。

「この話終わり!」
「あっ、ちょっと楓ちゃん?」

 わたしは、美兎ちゃんの手を掴んで、公園から出る。
 きっとこの光景を知り合いに見られたら、この町は、わたしにとって、去年とは違う町になると思う。

 でも、それも悪くないかなって、誰かに見せてもいいかなって、そんな気もして。
 わたしは、どこに行こうかを何も考えないまま、美兎ちゃんの手を引いて町を歩いて行く。

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