ジャンル:暗殺教室 烏イリ お題:ドイツ式の夕日 制限時間:30分 読者:126 人 文字数:1482字 お気に入り:1人

ヒトリとヒトリノ夜

「……もしもし」
「ミスター・カラスマだな。きさまの大事な人は預かった」
「ほう。おかしいな、娘は数時間前にもう夢の中のはずなんだが」
「……娘じゃなくて」
「じゃあ元・生徒たちか? 彼らはそう簡単に捕まるような鍛え方はしていなかったが」
「ほら、もっといるでしょ、大事な人っ!」
「さあ。他には部下たちとかだが、彼らもそう簡単に捕まるようなタイプじゃないしなあ。果たして、簡単に捕まえられて人質にされるようなタイプのヤツは居たかな」
「たーだーおーみー!」

のらりくらりとはぐらかす夫に焦れて、イリーナは思わず電話口で声を張り上げた。きぃん、と一瞬耳鳴りを起こすような感覚がして、烏間はくつくつと喉の奥で笑ってみせる。
「お前、それで声色を変えたつもりだっていうのなら、ちょっと問題だぞイリーナ」
「もう! ちょっとは騙されたフリしてくれてもいいじゃない!」
「残念ながら猿芝居が苦手なんでな、おれは」
「さっきの空っとぼけは猿芝居じゃないっての?」
「まあ嘘は一言も言ってなかったしな」
「ひどーい! あたしは大事な人じゃないってわけー!?」
「大事じゃない、とは一言も言ってないだろう?」
「あ、う……そうでした……」
沈黙。おそらく、電話口で顔を赤くしているに違いない。その表情すら目の前で見ているかのように想像できてしまい、烏間は唇の端が上がるのをこらえ切れなかった。慌ててゴホン、とひとつ咳払いをして、烏間は仕事モードに頭を引き戻す。

「で、どうだ。ドイツ出張。なにか収穫はありそうか?」
「そうね、今日の会議じゃのらりくらりとはぐらかされちゃったけど、イケそうな糸口は掴めたわ。明日はそこに直接当たってみる」
「そうか。……極秘任務というわけではないから、そこまで危険はないとは思うが……無理はするなよ。何かあったら——何もなくても、おれに逐一報告を入れろ」
「室長は心配性ね。了解」
「ただでさえ人員の少ない部署で、貴重なエースなんだ。お前という存在が欠けたら、状況が2年分くらい後退してしまう」
「あら、あたしが大事なのはあたしがエースだから?」
「娘を泣かすようなことにはなるな」
「そりゃあ、もちろんよ。……なんかないの? 烏間イリーナさんのダンナサマから一言、は」
「……」
「……ちょっと、ほんとになんにもないわけ?」
「……上司としての命令はひとつだ。死ぬな」
「……りょーかい」
「夫としては、……帰ってきたら教えてやる」
「なにそれ。ケチね」
「知りたきゃ、一刻も早く終わらせて帰ってこい。……死ぬほど甘やかしてやる」
「やん、響きがえっちい」
「……帰ってきたらされたいことをせいぜい想像してろ。その想像の上をいってやる」
「期待しちゃうわ」
ふふ、とこぼされる笑いの柔らかさがすでに、今のこの時間帯によく聞いている笑い声のようで。烏間が小さく覚えてろよ、と言うと、イリーナはいたずらっぽくきゃらきゃらと笑った。

「——そっか、今そっちは深夜だっけ。ごめんねぇタダオミは今日は独り寝なのに、悩ましい声なんか出しちゃって?」
「気にするな」
「こっちは夕方——あ、ちょうど夕日が沈むとこ」
ガコン、と聞こえる音は、どうやらホテルの窓をイリーナが開け放ったらしい。
「ドイツのきれいな夕日よ。あんたにも、あの子にも見せてやりたい」
「……次の休みには、初の家族旅行にでも行くか」
「いいわね! どこに行こうかしら」
「帰ったらそれも相談しよう。……おれは、いい旅行先を知らないからな」
「あたしがこれから、いっぱい教えてあげる」

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