ジャンル:暗殺教室 烏イリ お題:天才の姫君 制限時間:30分 読者:125 人 文字数:1631字 お気に入り:0人

お姫様は忠犬

天才という言葉がきらいだ、という人がいる。
今自分に備わっている実力はすべて「天」とかいうよくわからないものから与えられたもので、そこに自分自身の努力とか、そんなものは介在しておらず、ただ運がよかっただけなんだよ、と言われているようで腹立たしいからというのが、だいたいその理由だと聞く。

あたしは嫌いじゃない。「天才」という言葉が。

整形とか、そういったことをしなくとも美しい顔かたちに生まれついたのは運の良さであるとしか言いようがない。
整形をしている同業者が多いのは知っているけれど、そして本当に実力がある同業者は整形をしてる・してないに関わらず、相手をオトすことが可能なひとのことを言うものだけれど、それでもあたしは素のままで勝負ができる、自分の顔かたちを気に入っている。
整形をするとどうしたってメンテの手間が膨大だし、流行りに合わせて自分を変えられる、というイージーさは慢心につながる。リスクだってかなり高い。
……それに、あたしの両親の生きた証ひとつ持ち出すことができなかったあたしにとって、あたしのこの顔と身体は、両親が唯一遺してくれたものだ、とも言えるから、大事にしてやりたいのだ。

その顔かたちを武器のひとつに、もちろん努力も怠らない。会話術、知識、立ち居振る舞いや洋服のセンス。必要とあらばどんなスキルだって吸収してきた。
ほんとうの天才は、天才という言葉が嫌いです、という時間すら惜しんで努力を続ける、あたしのような者のことを言う。



そう。あたしは天才なのだ。「男をオトす」——という分野においての。
天才。の、はずなのに。



あたしはソファに深く腰をおろして、わかりやすくむくれている。となりに座るカラスマは、そんなあたしをまったく意に介さないような空気を出しながら、さっきからずっとえんえん、持ち帰り仕事の書類を読んでいる。む、と唇を曲げて腕にしがみつくと、ふりほどくでもなくこちらを向くでもなく、何事もなかったかのように書類を読み続ける。まるであたしがいないみたいに。
(……同棲開始したこ、恋人がすぐ横で暇そーにしてるってのに、このノーリアクションっぷりったらどうなのよ)
悔し紛れに脇腹を数回つっついてみるけど、それすら無表情ですい、とかわされた。
……おかしい。「天才」のあたしが敗北しようとしている。
それは許されないことだと、あたしはいろいろな方法でカラスマの気を引こうとしてみた。それとなく上着を一枚脱いでみたり、もっと密着してみたり、豊満なバストを腕にむにゅむにゅ押し付けてみたり。それでも結果はすべてノーリアクション。

こうなったら、と一念発起し、カラスマのベルトのバックルに手を伸ばす。と、「やめろ」と声が降ってきて、やんわり手が押し戻された。
むううう、と唇がきゅうっとへの字に曲がる。

「……もおおおお、カラスマってば恋人になりたての女の子がとなりにいて暇を持て余してるってゆーのに、なんっとも思わないわけ!?」
天才の肩書きに全くふさわしくない、ちょっと涙目のあたしが抗議すると、すこし驚いたような顔でカラスマは返した。
「……おまえ、ヒマだったのか?」
「さ、さっきからカラスマにかまってーかまってーって色々やってたじゃない!」
「ああ……E組の時からよくやられてた事だったから、これはお前の癖みたいなもんなんだと思ってた」
そう言うと、ぱさりと読んでいた書類をテーブルの上に置いて、カラスマはこちらをようやく向いた。いざこちらをまっすぐ見られると、なんだかドギマギしてしまう。天才の肩書きはどこへ。
「お前、何にも言い出さないからな。暇だってんなら、どっか行くか」
「行く!」
「よし。じゃあ支度しろ」

まるで散歩に行くぞと声をかけられた忠犬みたいに、あたしの声は思いがけず弾んだ。
天才の肩書きは、この男を掌の上で転がせるようになるまで、少し返上しておいたほうがいいのかもしれない。

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