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舟の上

※舟渡ししながら旅してるサレオスさんとモブのヴィータ

「なあ、あんた、おれの傷は深いのか……」
「いや、そんなことはないさ」
 舟渡しはあっさりとそう言ってのけると、また一つ櫂を漕いだ。見えはしないが、感触で分かる。小舟の板の上で、おれの耳がかすかに推進力を感じた。
 盗賊に襲われ、川へと落ちのびたおれは、奇妙な船乗りに引き上げられて、今に至る。
 斬りつけられた背中の傷は、相も変わらずじくじくと痛むが、船乗りに手当てされてからというもの、次第にひきつれるだけの穏やかさに変わっていた。
 ともすれば、あの世に向かっている最中かも知れなかった。
 目がかすんで見えない分、ほかの感覚が鋭敏だった。なぜか、潮の香りがした。海が近いのかもしれない。舟の底に寝そべっていると、水をくりぬいたように、自分の位置が水面よりも下にあることが分かる。舟の縁からはびしゃびしゃと水が跳ねていて、気が付けばあふれ出すような錯覚に陥る。そのたび足を動かすと、びしゃ、とかかとが跳ねて、それでようやく水面が分かる。
「雨が……降ってないか? ひどい雨が」
「はは、お客さんは大げさだな。これはどう多く見積もっても小雨だし、舟が沈む心配はないさ」
 降り注ぐ雨音は耳の奥にごうごうとしていて、結構な雨が降っているように思われる。目を閉じているからそう感じるのかもしれない。頬に落っこちる水滴が、川のものなのか、それとも天からのものなのか、判じがたいものだった。
 船渡しの声は穏やかだった。
 いずれにせよ、頭がひどく痛む。想像の奥で、水面は黒く輝いて揺れている。
「金を持ってないんだ」
 ふと、三途の川を渡るには、渡し賃が必要だった、などという話を思い出した。
「そうか、そいつは困るなあ」
「だが、小刀ならある」
「なら、大丈夫だ」
「おれに刺さってたやつだ。毒が塗られてた。おれは、たぶん死ぬだろう」
 俺は住所と呼ぶには粗末なうめきごとを呻いたが、船乗りは笑うばかりだった。
「おまえさん、そんな状態で、自分の状態が判断できるものか。くたばるならとっくにくたばってるさ。幸運だったんだろう、それか、毒なんて、川で洗い流されちまったろうさ。ほら、着いたぞ。待ってな、人を呼んできてやるからよ」
 舟はゆっくりと動きを止め、岸についた。おれは確かに死んだはずだったが、おれの手は不思議とまだ動いていた。

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