ジャンル:暗殺教室 烏イリ お題:かっこいい階段 制限時間:30分 読者:46 人 文字数:1652字 お気に入り:0人

これから上り詰める者の休息 ※未完

一段一段、踏みしめてのぼっていく。のぼりつめていく。
あたしはその背中を眩しく見つめながら、そしてその背中を守るように寄り添いながら、時に力を失いそうになったその背中をそっと支えながら、共に歩んで行くことを決めたのだ。



特別海外調査室が発足する、半年以上前の話——。あたしがまだその部署の、影形も知らされていなかった頃の話だ。
長い長い長い会議から帰ってきたカラスマは、明らかに疲弊しきっていた。会議の時間が押して、予定終了時刻からプラス30分ぐらい経ったころに、様子を伺おうと会議室の前を通ったが、あのよく通るカラスマの声が珍しく怒鳴り声に近いものだったことにびっくりした覚えがある。
その勢いに少し怖気付いて、あたしが自席に戻ってさらに45分くらい。ようやく自席に戻ってきたカラスマは、見るからに疲れ切っていた。
「……おつかれさま。もう、会議は終わったのよね?」
「……ああ」
「じゃ、一緒に帰りましょ?」
「……ああ」
いつもなら、会議はどうだったとか、今後はどういうプロジェクトが動くのかとか、そういった話をぽつぽつとしながら帰り支度をするところだったけれど、今日のカラスマは相当にお疲れのようだ。目頭をグッと揉みながら、ネクタイを少し緩めて持ち帰る書類を乱雑にカバンにバサバサと突っ込んでいる。丁寧な男が珍しい、と思いながら、あたしはいつもより明るめに、を意識してカラスマに話しかけ続けた。
「ちょっと遅くなっちゃってるけど、まだスーパーあいてる時間に帰れそうで良かったわ」
「……ああ」
声にあからさまに滲む疲労感。これはちょっと、重症かもしれない。
「ね、今晩はなにが食べたい? カラスマ」
いつもは「なんでもいい」とか、「肉」とかそういう抽象的なものしか答えてくれないカラスマは、めずらしく今日は即答だった。
「……しょうが焼き」
「へ?」
「しょうが焼きが食いたい」


ざくざくと少し早足で駅へと向かう後ろ姿を、慌てて追いかけた。ざくざくと歩きながらもその語りは止まらない。
「千切りキャベツを横にたっぷり添えて、ちょっと厚めの肉で、タレがいっぱいかかったのが食いたい」
「や、やけに今日はリクエストが詳細ね?」
「マヨネーズも横に添えてほしい」
「め……珍しいわね」
「メシは少し硬めに炊いてあると、うれしい」
「う、うん」
「味噌汁はワカメと豆腐がいい……」
「ああ、カラスマ好きだもんね……わかった、そうする」
「あと、きゅうりのキューちゃん」
「きゅうりのキューちゃん」
「それだけあれば満足だ」
「う、うん……わかった。とりあえず、キャベツとお肉は買わないとだから、スーパー寄って帰りましょ?」



やけに夕食に詳細なリクエストをしたカラスマは、帰宅してもどこかぼんやり上の空だった。
いつもは書類を片手にソファで仕事の続きをしていたりするのに、食事の準備が済む前から食卓につき、頬杖をついてぼんやりとしている。
あたしが食事を食卓に並べ始めると、いつものようにそれを手伝って一緒に並べて、それから再び食卓につく。
いつもより掠れた声で、きちんと手を合わせ、いただきますと言った。

それからの勢いといったらなかった。まるで三日食事を抜いたあとの食事と言われても納得してしまいそうなぐらい、カラスマは勢いよくそれらの食事をかきこみはじめた。
伸びた背筋ときれいな箸づかい、そしてきちんと30回以上の咀嚼。いつもの動きなのに猛スピードのそれは、まるで早回し映像を見ているかのよう。驚いたあたしがいちいち箸を止めてそれを見守ってしまうぐらいだった。


すべてをキレイに食べ終え、しかも2回おかわりをして。
ひとごこちついたらしきカラスマが、ようやくポツポツと話し始める。
今、新たな部署の創設を進言しているけれど、上の理解が得られずなかなかうまくいっていないこと。上からは疑問視されているけれど、これからの日本には確実に必要となる部署になるだろうこと。それから——。

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