ジャンル:テニスの王子様 お題:光の霧 制限時間:1時間 読者:44 人 文字数:2423字 お気に入り:0人
[削除]

光はすぐそばに



光の霧



3年生の修学旅行は、在校生が最も楽しみにしている行事だと言っても過言ではないだろう。
氷帝学園の修学旅行は3年次の9月に行われ、行き先はヨーロッパ、オーストラリア、アジアの中から選択できるようになっている。
氷帝学園生徒会副会長こと柊真知は、特に希望する行き先はなかったためクラスの中で気があう友人らに合わせ、ヨーロッパ観光コースを選択した。
最も人気が高く、選択人数が多いヨーロッパ観光コースでは、修学旅行ということで気が緩む生徒や、過剰に羽目を外してしまう生徒も多くいる。それらをいちいち注意して周っていたため、彼女自身の観光は実はあまりできていなかったのだった。

ふと目が醒める。消灯時間が過ぎ、目を瞑るも眠れずに何度も寝返りしていたがいつの間にか寝ていたようだ、身を起こした。
ベッドサイドに置かれた腕時計を手に取る。AM4時。
起床時間には随分早い時間だった。カーテンの隙間からは、うっすらと青っぽい光が滲んでいる。
同室の友人はまだみんなぐっすりと眠っているようだ。
真知は少し神経質なところがあった。枕が変わると眠れないタイプで、かつ遠足の前の日は眠れなくなるタイプである。
もう寝付けないだろうな、と早々に諦めた真知は、ベッドサイドに手を伸ばし、音を立てないようにそっと眼鏡を取った。
手櫛で軽く髪を整え、寝間着の上にカーディガンを羽織る。
さっと身支度を済ませた真知は、足を忍ばせながら部屋を出て、耳が痛くなるほど静まり返った廊下に出た。
部屋にいたら友人を起こしてしまうかもしれないし、探索ついでに少し散歩でもしようという気分になったのだ。
ぐっと背を伸ばし、ほんのり涼しい空気で肺を満たす。廊下の空気はひんやりしているが、寒く感じるほどではない。
ここは海外。人気のない場所は危険なので本来なら一人で歩き回ってはならないのだが、ここは別だろう。
さすが氷帝学園ともいうべきか、2泊するこのホテルは、とても中学生が修学旅行で泊まるようなランクではない宿泊施設だった。贅を尽くした造り、美しい装飾、質の高い料理、徹底されたサービスと、宿泊施設に必要なものは全て最上級のものを用意されていると言っても過言ではない贅沢っぷりであった。
そもそも怪しい人は泊まれないレベルの宿泊施設だし、定期的に守衛が見回っている。
真知は運営側としてそれを承知していたため、堂々と部屋を出て歩き回っているのだった。

ぺたぺたとスリッパの軽い音を立てながら歩いて行く。氷帝生たちの部屋がある区画を抜け、エントランスを通る。
ひんやりとした空気の中散歩するのは気持ちがいいし、このホテルはどこを見ても美しいので、何分歩いても飽きがこない。
すると、なんだか大きな窓が視界いっぱいに映り込んできた。
気づけば真知は中庭付近のラウンジに来ていた。
ティーテーブルがいくつか置かれた空間を抜けて窓際に近づく。外は霧が立ち込めており、その先を見ることは叶わなかった。

冷えた窓ガラスにそっと手のひらを付けて、真知はほうとため息を吐いた。
中庭は噴水やバラのアーチがあったはずだが、これだと外に出るのも危なそうだな。
とは思うもののやはり中庭の美しさを目の当たりにしたいという欲が消えず、真知はなんとなく窓際に最も近い椅子に腰かけた。

「晴れないかなぁ…」

肘をつき、手のひらに顎を乗せながら呟く。

「この霧じゃ、朝のうちは無理だろうな」

まさか返事があると思いもしなかった真知は、びくりと体を跳ねさせながら振り向いた。
そこには、腕を組み、窓の外を見据える跡部がいた。

「か、会長…?!」

寝起きというのもあり、驚いて少しかすれた声で尋ねる。アイスブルーの瞳でしっかりとこちらを見やった跡部は、ふむと頷いた。

「おはよう柊。寝付けなかったか?」

「おはようございます会長。まあ、そんなところです」

最初こそ狼狽した態度の真知だったが、すぐに落ち着きを取り戻し返答する。

「今日は本格的に観光地へ行く日程だろ。寝ないと辛いぞ」

早朝だからか、いつもよりも低く、落ち着いた声が頭上から降ってくる。声を張らないだけでこんなにも優しげに聞こえるものなのか、と真知は内心驚いた。

「分かってはいますが…」

腕時計は4:35を示していた。定められた起床時間にはまだ後2時間ほどある。二度寝するには十分な時間だと言えるだろう。
しかし、なんとなくまた昨夜のように寝付けず何度も寝返りする羽目になるだろうことを真知は予期していた。

「柊は繊細だからな。旅行、苦手だろ」

殊更新しい環境がストレスになるタイプだ、と跡部は付け加えた。
図星だった真知はそれに苦笑で応える。

「霧、深いですね」

「ああ、まあロンドンの早朝は大概こんなもんだな」

かつてロンドンに住んでいたという跡部は、さらりと言った。住んでいた人間、というよりはもはや現地の人の言葉のように真知は感じた。
いつの間にか真知が座る椅子の横に立っていた跡部は、相変わらずまっすぐ窓の外を見据えている。
そんな跡部を見上げた真知は、なんだか胸騒ぎを覚えた。

「会長は…」

「ああん?」

「…いえ、なんでもありません」

進路について、真知は会長たる跡部と何か言葉を交わしたことがなかった。
跡部の親の実家がこちらにあることも、テニスの本場がロンドンであることも知っている真知は、この立ち込める霧が、跡部を連れ去り閉じ込める霧のように思えた。

跡部がフッと笑う。
空気の振動を感じた真知は、再び跡部を見上げた。

「安心しろ。お前の中に、俺はずっといる。そうだろ?」

目を合わせた跡部がにっと笑ってそう言ったのほぼ同時に、霧の中で一筋の光がチカチカと真知の目元を照らした。
見た目ほどその一筋の光を見逃さないよう、真知はじっと窓の外を見つめるのだった。

同じジャンルの似た条件の即興二次小説


ユーザーアイコン
作者:てるい ジャンル:テニスの王子様 お題:遠いパイロット 制限時間:1時間 読者:95 人 文字数:1920字 お気に入り:0人
「あ、流れ星」「なんじゃ。見つけるの早いのう」満天の星空。それでも空で瞬く星にも負けない綺麗な銀色の髪が視界の端でひょこひょこと跳ねる。「仁王くんほんとは見つけ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:宙@立海待機 ジャンル:テニスの王子様 お題:灰色の春 制限時間:1時間 読者:161 人 文字数:2086字 お気に入り:0人
春が好きだった。 愛する草花が咲き乱れ、新生活に少し緊張した人々が街にあふれ、誰もが何かが始まると期待をする。そんな季節に生まれたことを、何度だって感謝した。 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:東堂みく ジャンル:テニスの王子様 お題:悔しい絶望 制限時間:1時間 読者:450 人 文字数:2839字 お気に入り:0人
※選抜合宿中の設定このところ、跡部が突っかかってこない。己を避けているようにも思う。事務的な会話はする。挨拶だって普通に交わされる。けれど、ただそれだけだ。いつ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:秋月蓮華 ジャンル:テニスの王子様 お題:ひねくれた交わり 制限時間:1時間 読者:426 人 文字数:1153字 お気に入り:0人
(オリキャラ居たり周囲模造だったり)【ある意味では一蓮托生】とあるマンションの一室で最新型の大型テレビに写っている男は台所でパエリアを作っている。わたし、君島玲 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:クニムラ ジャンル:テニスの王子様 お題:運命の使命 制限時間:1時間 読者:886 人 文字数:2345字 お気に入り:0人
人には必ずやり遂げなければいけない使命がある。例えばそれは、家族を支えることであったり、何かで成功することだったり。人によって様々だ。 たまたま俺の使命は家を 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:クニムラ ジャンル:テニスの王子様 お題:儚い自動車 制限時間:1時間 読者:420 人 文字数:1989字 お気に入り:0人
財日: 夢だと思った。 俺は学ランを着ていて、バスに乗っている。しかも、何故だか隣には、財前がいた。 我ながら都合がいい。 俺は財前が好きだ。だからきっとこの夢 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:東堂みく ジャンル:テニスの王子様 お題:真実の芸術 制限時間:1時間 読者:646 人 文字数:1869字 お気に入り:0人
「……なぁ、こんなとこホンマえぇの?」「何度も言わせんな。良いに決まってんだろ」キョロキョロと所在なさげに当たりを見回して不安そうな表情を浮かべる忍足に、半ば呆 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:東堂みく ジャンル:テニスの王子様 お題:遅すぎた宇宙 制限時間:1時間 読者:741 人 文字数:1104字 お気に入り:0人
「綺麗だな」「!う、うむ」突然降ってきた声に、不覚にも驚いてしまった。合宿中の、気を休めることのできる夜の一時。自主トレを済ませた後、何とはなしに外へ出て星空を 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:つおか ジャンル:テニスの王子様 お題:どうあがいても職業 制限時間:1時間 読者:502 人 文字数:1252字 お気に入り:0人
「ほら千歳、そろそろ閉館時間になるさかい、帰んで」「あ、うん。ちぃと待ってくれんね、今片付けるけん」自分たち以外誰もいないというのに、自然と小さく潜められた白石 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:たかし三世 ジャンル:テニスの王子様 お題:過去の衝撃 制限時間:1時間 読者:672 人 文字数:1338字 お気に入り:0人
夜、駅のロータリーで、タクシーを待っていた。久しぶりに帰国した日、ちょっと用事があったから、空港から直接向かってその帰り。人気のない小さな駅に駐屯のタクシーはい 〈続きを読む〉

匿名さんの即興 二次小説


ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:刀剣乱舞 お題:遅いガール 必須要素:囚人 制限時間:15分 読者:7 人 文字数:775字 お気に入り:0人
俺の主は、何をやるにも遅い。「ねー主ー、まだなのー?」「ん、んー、も、もうちょっと…メイクが終わらなくって」「もう、ファンでだけでどれだけかかってるのさ!ほら、 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:NEW GAME! お題:馬鹿な人間 必須要素:京都 制限時間:15分 読者:7 人 文字数:1005字 お気に入り:0人
いつもと変わらない通勤時ガタンゴトンっと電車が揺れて甲高いブレーキ音を出して止まり、バシャアと扉が開く。そこの空いた入り口にドッと客が入る。その入ってくる人を凝 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
妖狐×僕SS ※未完
作者:匿名さん ジャンル:妖狐×僕SS お題:ナウい音 制限時間:15分 読者:4 人 文字数:542字 お気に入り:0人
うるさいほど騒がしいラウンジも今日だけは違う。平日いつもより早く帰った凜々蝶は学友と共に宿題と向かい合う。「ちよちゃん、お腹空いた。」「今サンドイッチ食べろ!」 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:艦隊これくしょん~艦これ~ お題:誰かは道のり 必須要素:残尿感 制限時間:1時間 読者:7 人 文字数:283字 お気に入り:0人
不安で心細くて、どこを歩いているのかもわからなくなったとき、顔を上げるといつでも君の背中が目に映る。 君は僕のしるべだ。「……時雨ー、聞こえてないっぽいー?」 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:おそ松さん お題:昼間の演技 必須要素:ところてん 制限時間:30分 読者:10 人 文字数:763字 お気に入り:0人
※見方によっては腐向けっぽいです※マフィア松…らしきもの「あーぁ、死んじゃったよ」 そう云い、目の前のdead bodyを踏みつけるmy brother。実にc 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:血界戦線 お題:急な窓 制限時間:30分 読者:17 人 文字数:1290字 お気に入り:0人
レオナルド・ウォッチは衝撃とがれきの煙の中で目覚めた。「おはようございます」彼は常識的な礼儀正しい人間だったので、自宅の壁であったところをぶち破り、窓を作成した 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:魔法少女育成計画 お題:最弱の夕日 必須要素:暗黒の瞳 制限時間:30分 読者:14 人 文字数:1524字 お気に入り:0人
コートを一度撫で、ベルトの色を差し替えた。魔法で作る衣装は、美々の気分に合わせて細部を変更することができる。些細な変化ではあったが多少気が紛れた。しかし――服 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:東方プロジェクト お題:恥ずかしい視力 制限時間:1時間 読者:9 人 文字数:930字 お気に入り:0人
えーりん次の方ーえーりんはよぶえーりんは幻想鏡一の医者だ今日は視力検査の日で俺はえーりんに呼ばれたので診察室に入る頑張らないとなぜなら前の患者が視力9,9だから 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
【腐】無題。 ※未完
作者:匿名さん ジャンル:ツキウタ。【腐】 お題:潔白な夜 制限時間:1時間 読者:12 人 文字数:907字 お気に入り:0人
*****「この前のロケの合間に、俺が撮った写真が出来上がったって、スタッフさんが届けてくれたんだけど。みる??」Procellarumのリビングに、最後に仕事 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
【腐】無題。 ※未完
作者:匿名さん ジャンル:ツキウタ。【腐】 お題:昨日食べた話 制限時間:15分 読者:17 人 文字数:2193字 お気に入り:0人
よるる誕生日おめでとう!!~の、夫婦の日(二人)に祝福あれ!健やかに穏やかな一年でありますように、祈りを込めて(合掌。***七夕の日には、照明を落として独り部屋 〈続きを読む〉