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今剣の野望

今剣には密かな野望がある。
それはずばり、あるじ様の頭を撫で撫でして「きょうもいちにち、おつかれさまです。あるじ様!」と言う、些細な野望だ。
しかしそれは、いつもいつも戦場において誉を奪い去る憎き初期刀文系ゴリラこと歌仙兼定により失敗に終わっている。

「主、今日も一日お疲れ様。」

あるじ様の柔らかそうな髪を梳きながら、歌仙は優雅に笑うのだ。今剣よりは背が高く、歌仙よりはやや低いあるじ様の頭を撫でるとなると、やはり身長がネックであった。
どうして自分は短刀なのだろうか、と。今剣は頬を膨らませながらそんなふたりを見上げることしか出来ない日々だ。

だがそれも、ある日たまたま、今剣が誉を頂いたことで変化する。

「あるじ様!きょうは、ぼくがほまれをとりましたよ。どうだ、すごいでしょう!」

高下駄を跳ねさせながら、あるじ様の目の前に降り立つと腰に手を当て胸を反らせ、今剣は誉桜をはらはらと散らせながら言い放つ。
書類を見ていたあるじ様は、それはそれは頬を緩ませて「よくやったね、今剣くん」と頭を撫でてくれる。嬉しくてむずがるように笑いながら、今剣はそうではなかったと気を取り直す。

「あるじ様も、おつかれさまです!」

そう言って、自身の頭を撫でるためにしゃがんだあるじ様の頭を背伸びしてよしよしと撫でてあげれば、瞠目したのちに楽しそうに笑ってくれた。

「ふふ、ありがとうございます。今剣くん」

笑ってくれたけれど、今剣は首を傾げる。せっかくの野望が叶ったというのに、なぜだか達成感がないのである。不思議に思っていれば、夕餉の準備をしていた歌仙が現れる。

「さあ、準備が出来たよ。」

そうして、手癖のようにあるじ様の頭を撫でる。その瞬間、今剣は気づいてしまった。ああ、なるほど。と。
人間であるのに、まるで誉桜を舞い散らすかのようにあるじ様は頬を赤らめ笑っている。今剣も、これが見たかったのだ。けれど、それを見せてくれるのは歌仙が頭を撫でた時だけと気づいて、赤い眼を小さく瞬かせた。

「ああ忘れてた。主、今日もお疲れ様。」

目の前で広げられた光景に、今剣は、ちょっとだけ岩融に会いたいなぁと目を細めながら、2人の後ろを跳ねるようについていった。

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