ジャンル:暗殺教室 烏イリ お題:思い出の宗教 制限時間:30分 読者:135 人 文字数:1622字 お気に入り:0人

彼は過去を語らない

毎朝、カラスマの家の近くの神社で祈るあたしを、カラスマは自分は祈るでもなくただじっと見ている。
あんたは祈らなくていいの、と尋ねると、困ったような顔をして答えた。

「……それこそ毎朝毎晩、必死に祈っていたお願い事を、おれは叶えてもらうことができなかったからな。逆恨みに近い感情なのはわかっているが、おれはもう神さまにお願い事をするのはやめたんだ」

意外なカラスマのセリフに、あたしは目をぱちくりとさせる。
「お祈りは済んだか?——なら、行くぞ」
そう言って踵を返したカラスマを慌てて追いかけ、鳥居を過ぎた石段のあたりでようやく追いついた。
「カラスマにも、そんな神頼みで必死にお祈りしてた時期があるなんて意外だわ。いつの話?」
「……子供の頃の話だ」
石段を降りる途中でふと立ち止まると、カラスマはいきなり思い出したようにあたしの顔を見つめて、静かなトーンでつぶやく。
「ああ、そういえばお前には、まだ話していなかったな」
「なんの話を?」
「おれの妹の話だ」
「あんた、妹いたの? 初耳!」
「あまり、人には話したことがなかったからな。——なにせ、もう居ないから」

まるでその時を狙いすましたかのように、ざあ、と大きな風が吹く。あたしが慌てて髪の毛を押さえると、カラスマはゆっくりとまた石段を降り始めた。
「……居ない、って、それって」
「文字通りの意味だ。——亡くなって、もう居ない」
「じゃあ、お願い事っていうのは……」
「……妹は、ずっと身体が弱かった。それこそおれが、妹の分まで生命力を奪い取って産まれてきたみたいに」
「……」
超人、規格外、人間辞めてる——ありとあらゆる枕詞をつけられる兄と、病弱な妹。そんないびつな関係性で、兄が妹に対し、妹が兄に対し、ひとかけらもコンプレックスや妬み嫉み、負い目の数々を抱かずに生きていけるだろうか。ひとりっ子の——そして早くに両親を亡くしているあたしでも、その兄妹の複雑さは容易に想像がつくし、実際にどんな関係性だったかの想像はつきづらい。

カラスマはあまり家族の話をしない。自分の過去も語らない。
日本という平和な国に生まれ、どうやら両親も存命で、エリートで上司の覚えはめでたく、部下にも慕われ、おまけに完璧超人。
きっと、いろいろなところで歪みや欠けを生じさせながら生きているあたしなんかとは比べものにならないくらいに「完璧」な人生を送ってきているのだろうと思っていたあたしの恋人は、実はどこかでとんでもない歪みを抱えて、生きていたのかもしれない。
急に目の奥がツンと痛み、胸がいっぱいになった。

「……おい、イリーナ?」
急に足を止めたあたしを訝しんで振り返ったカラスマに、勢いをつけて飛び込む。驚いた顔のまま、カラスマはそれでもあたしをしっかりと受け止めてくれた。
「……お前を泣かせようとして、この話をしたんじゃないんだが」
「わかってるわよ。あたしがいろいろ想像力豊かに、想像しちゃったってだけ」
「多分お前が想像するほどに、暗い話でも鬱々とした話でもないから、心配するな」
「暗いとか不幸とか、かわいそうだとか判断するのはあたしよ。あんたにとってはなんでもない出来事だったとしても、あたしにとってはそうじゃないかもしれない。……今のあたしは、妹さんのためにいっぱいお祈りをしてくれた、昔のあんたがかわいそうで、愛おしくて泣きそうなの」
「……それは、ありがとう」
ぽん、とあたしの頭に手が乗せられる。いつだって迷わず、力強さをたたえている、あたしの大好きな手が。


「……そうだな。いつか、妹の話も聞いてほしい」
「いくらだって聞くわ。教えて、妹さんのこと」
「……いつか、妹の墓参りも、一緒に来てくれるか」
「ええ。ぜひ——お花を供えさせて」

「……おれの両親にも、いずれ会ってほしいと思っている」
「……それって、えっと……まあ、今は深く考えないわ、その意味」

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