【カルジュナ】小説家x婚約者3
アルジュナは頭の良い子供だった。カルナが見知ってきた、どんな子供よりも。しかし、アルジュナは子供だからこそ、その言葉の重大さに気付いていなかったともいえる。例えば、自分が分からなかったなら大人に聞くこともできただろう。だが、アルジュナは周囲から賢い賢いと言われて育ってしまったため、大人に訊ねることはとても恥ずかしいことだと認識するようになってしまっていたのだ。
だからこそ、その日、アルジュナがどうして臍を曲げているのか、カルナにはとんと分からなかった。
「機嫌を直せ」
「いいえ、きげんがわるくなんてありません」
つん、と瑞々しい唇を尖らせ、アルジュナは分かりやすく拗ねていた。カルナの仕事机の横にある、アルジュナ専用のチェアに腰掛け、お気に入りのヒポぐるみを抱えながら、ずっとこの調子だった。カルナは当初こそあれこれと気を回していたが、そもそも相手の空気を読むということに関しては、自他共に「向かない」「似合わない」「出来たためしがない」の三拍子だったのだ。
アルジュナが居てくれるのは嬉しいのだが、こうも刺々しい空気では、膝に乗せることもままならない。原稿が上がった後、アルジュナを膝に乗せながら読み聞かせをしてやるのがカルナのいっとうの楽しみだというのに、だ。
その時、不意にインターフォンが鳴る。カルナがデスクの前から動こうとするより先に、ぴょいとアルジュナが椅子から飛び降り、玄関へと走っていく。いつのまにか用意してあった踏み台を使って、チェーンまですぐに外してしまった。
「おいアルジュナ!」
アルジュナをひょいと抱えて持ち上げたのも一瞬遅く、ガチャリとドアが開いた向こうからは見慣れた銀髪が見えた。
「ジークフリート…?」
「すまない、もしや彼から聞いてはいないだろうか」
ジークフリートが見下ろしているのはアルジュナで、カルナはその旋毛を見下ろしながらゆっくりと首を振った。アルジュナからは、ジークフリートが来るなどとは聞いていない。
ジークフリートはカルナとは高校からの付き合いで、大学は袂を別ったものの交流は潰えていない。アルジュナとも何度か会ったことがあり、実直で真面目な正確はアルジュナとも馬が合うようだった。
そのアルジュナはというと、腕をぶんぶんと振り、もがくようにしてカルナの腕からすり抜ける。すとん、と床に降り立ったアルジュナは、玄関横にかけてあった麦わら帽子を取って頭にかぶる。
「カルナ!わたしはこれからジークフリートさんととうひこうをしてきます!」
「は?」
「すまないが、その射殺しそうな目をやめてくれ」
「お前がそのような男であったとは。そうか、そうか。槍を持て」
「誤解だ!俺はアルジュナに頼まれて、カルナのアイディア探しを手伝うということを了承したんだ!」
「アイディア探し?」
現役時代の槍をどこに仕舞っただろうかと考えながら、オウム返しに聞き返したカルナに、アルジュナが胸をはって答える。
「そうです!カルナ、さいきん、ずぅっとパソコンのまえでうなってますから!このアルジュナ、カルナがおどろくようなぼうけんをしてきます!」
ねっ!と同意を求められたジークフリートは「…ということらしい」と眉を下げながらカルナに説明した。
「ならばアルジュナ、オレも共に行こう」
「だめです。しめきりがあるって、たまもおねえさんがいってました」
ぐぬ、とカルナが喉の奥で唸る。
ではいってきます!と飛び出していくアルジュナを苦々しい気持ちで見送るカルナに、ジークフリートが耳打ちをした。
「彼、早く君が原稿を終えて、遊んでくれるのを待っているんだ。健気だろう」
は、とカルナが目を見開くと同時、ジークフリートもさっさと玄関から飛び出していってしまう。カルナも追いかけようとしたところで、狙いすましたかのように携帯が鳴る。着信元は、編集者の玉藻、その人だった。
「……是非も無し」
こうしてカルナは締め切りを守るどころか前倒しにしてやろう、と心に決め、急ぎ作業を再開させるはめになったのだった。
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