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五つの教え

酷く子供っぽくて、我儘を言っているのは自分でもわかっている。
でも、それでも僕は、これだけは譲れないって思ったから。
いくら反対されても…どんなに辛くても、もう戻らない。
20年の中で、たった一つだけれど、一番大きな反抗を、今している真っ最中だ。


「よろしくお願いします。」


今日お世話になるスタッフさんに深く一礼。
礼を欠いてはいい仕事が出来ないし、僕だけじゃなくメンバーへの評価も変わると思っている。
それから、今日のゲストがいる楽屋へも挨拶。
コン、コン、コン、と三回ノック。
ドア越しに「どうぞ」と声がかかった。


「失礼します。」


「今日はよろしくね、逢坂壮五。」


僕をフルネームで呼ぶのは、TRIGGERのセンター、九条天くん。
憧れたアイドルグループであり、今は僕らのライバルグループ。


「よろしくお願いします、九条さん。」

「…なんか、いつもより変じゃない?」


恐らく、僕が敬語を崩さないことと、「九条さん」と呼んだことに違和感があるようで、
可愛いと形容される柳眉がひそめられる。


「ゲストだから、やっぱり敬語かなと思ったんだけど…。」

「気持ち悪いから楽屋ではやめて。本番では君の好きなようにしたらいいよ。君の番組だし。」


ありがたいことに、僕はラジオのコーナーレギュラーを頂いていて、今回そのコーナーへのゲストとして
九条くんが呼ばれている。
確かに、本番と楽屋のギャップが激しい九条くんだけど、なんだか、一本筋は通っていて、
いちファンとして見ていた時よりも、もっと好感が持てている。

そんなこと言ったら、もっと渋面を見せてきそうだな、と思うけど。


「それにしても、1年ちょっとですごいよね、MEZZO"。あっという間に知名度上がったし。」

「そのことについては、本当に事務所の皆さんと、ファンのおかげだと思っています。」


僕と環くんのユニット「MEZZO"」。確かに、ありがたいほど仕事が舞い込んで、
日々MEZZO"として活動することが多かった。
歌だけじゃなく雑誌の取材、写真集、CM。
ばたばたと埋まっていくスケジュールに最初は目が回りそうで、
おまけに相棒の環くんには振り回されて(一方的に言うと、環くんが怒りそうだけど)
僕は日々をこなすだけでいっぱいいっぱいだった。
だからそれは本当の気持ち。


「ふうん?模範解答?」


「でも…。」




でも今は。



「…僕は、MEZZO"である前に、アイドリッシュセブンのメンバーです。」



きっぱりと、そう言い切れる。
確かにMEZZO"である事も事実だし、MEZZO"でよかったと思っている。
でも、やっぱりその根底にはアイドリッシュセブンがあって、
だからこそMEZZO"で頑張れる。
いつだって、巨大スポンサー企業である父の影に怯えて、みんなに迷惑をかけたくないとびくびくしていた。

それなのに、みんなは僕を見捨てなかった。
どころか、メンバーとして本当に優しく、時には本当の家族のように叱ってくれたし、
僕が怒れないところでは代わりのように怒ってくれた。
環くんにも、みんなにも支えられて。

アイドリッシュセブンの逢坂壮五であることが、一番の誇りだから。

僕の言葉に九条くんはじっと僕の顔を見た後、ふっと笑った。
いつものアイドルスマイルじゃないけど、とても安心する。
…僕がよく見る、陸くんそっくりの笑顔。


「そう。…いいんじゃない。ようやく、ボクらのライバルになった感じして。」

「はい。負けません、TRIGGERにも。」

「いいね。ボクらも負ける気ないから。」


九条くんは、仕事に妥協しない人だ。
そして、その発言は、認められた証拠。
自然と口角が上がる。


僕らはもっと上を目指す。
すべてのアイドルを、超えて。


「アイドリッシュセブンが、一番です。」

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