ジャンル:暗殺教室 烏イリ お題:とびだせ魚 制限時間:30分 読者:97 人 文字数:1283字 お気に入り:0人

さざめくネオンテトラ

まるで生まれてからこのかたずっと空気の上澄みだけを吸って生きてきたかのような顔をして、イリーナはそこかしこでさざめく笑い声に合わせて実に上品に笑う。「上流社会の人々」が「交流」の為に定期的に開いているというこのパーティの中で、今回飛び込みでやってきたはずのイリーナはごく自然にその中に溶け込んでいた。

一方、この一見澄んだ空気はドロドロと渦巻く陰謀とか、欲望とか、後ろ暗い企てごとといったものを内包していることを知っている烏間は、正直居心地が悪くて仕方がなかった。物珍しい日本のシークレットサービス、的な扱いで潜入したものの、たまにわざとらしくぶつかってくる女性客の上目遣いとか、高級なものなのか、それともあまり大きな声では言えない葉っぱも混じっているからか、においの違う煙草の香りだとか、ぶつかったフリをして烏間の内ポケットに連絡先を書いたカードを忍ばせてくる、どうやらワン・ナイト・ラブのお相手を探しているらしい有閑マダムのきつい香水とか、そんなものに当てられた烏間は今にもこの場を飛び出したかった。

(——味噌汁が飲みたい)
まるで美しく彩られたアクアリウムの中を泳ぐ熱帯魚みたいに、イリーナはこの会場の中をすいすいと自由に動き回る。おべっかにはにかんで見せ、自慢話に大仰に驚き、不埒な流し目にはウインクを返す。そんなイリーナの動きをぼんやりと見守りながら、烏間は3日くらい食べていない日本食に想いを馳せている。
(——今イリーナの目の前にいるあの男は、あいつの作る茄子と油揚げの味噌汁が絶品だってことを知らないんだろうな)
そんなことを考えながら、協力者の男のシークレットサービスという仕事を全うするフリをして、イリーナの警護をしている。
もっとも、今のイリーナはイリーナという名前ですらないのだが。
偽りばかりが支配するこのパーティ会場で、イリーナはまるで水を得た魚のようにきらきらと輝き、なにものにも縛られていないかのように自由を謳歌している。——ように、見える。
「パーティで飲むたっかいお酒より、あんたと飲む発泡酒の方が何っ倍も美味しいんだけどね」
——そう言って笑っていたことを、烏間は知っている。

会場の人々を縫うようにこちらへやってきたイリーナが、烏間にわざとらしくぶつかっていった有閑マダムと同じような動きで、烏間にわざとぶつかった。
「あん。失礼」
そう言ってウインクをする顔に、いつもの仏頂面で会釈を返した。烏間の懐に忍ばせていったのは連絡先を書いたカードではなく、イリーナがそれとなく会話を録音していた、後ろ暗いところのある人々の会談の様子を収めたメディアだ。まためんどくさいお誘いがきた、という体で、めんどくさそうな顔をしながら内ポケットの中のそれを確認し、再び戻す。
「——ミッション完了。あとは終了まで気を抜くな」
小さな声で無線にそう宣言すると、烏間は再び仏頂面のシークレットサービスに戻る。

(——帰ったらふたりであの定食屋にでも行くか)
そんなことを考えながら、またパーティ会場に溶け込み始めたイリーナを目で追った。

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