ジャンル:暗殺教室 烏イリ お題:俺と霧 制限時間:30分 読者:115 人 文字数:1517字 お気に入り:0人

あなたは一生霧の中

複雑なようでいて、単純で、だけど複雑。
イリーナ・イエラビッチという女は、おれにとってはそうとしか言いようのない性格をしていた。

「もー、まぁた雨!? もう雨はいいっつーのっ、お洗濯もの乾かないじゃない!」
そう言って空に悪態をついたかと思えば、次の瞬間にはケーキ屋の新作情報に目を輝かせている。
「ふわあ! 夏みかんのゼリー! マンゴーソルベ! カラスマっ、帰りに寄っていきましょ!」
「寄らない」
「けちー!」


帰宅が遅くなると基本的に怒るくせして、ケーキを土産にして帰ったときの機嫌の反転っぷりときたら、見事なものだ。
「もー! 遅くなるんだったら連絡してよねって、いっつも言ってるじゃない!」
「すまん。これ」
「あー! この前のお店の夏みかんのゼリー! 覚えててくれたの?」
「そりゃ、店先であれだけ騒がれたら、そう簡単には忘れられんだろう」
「ま、いいわ。ふふーんやったー! カラスマはご飯どうする? 今日は餃子なんだけどー」
「いいな。時間が時間だし、メシはいいから餃子でビールが飲みたい」
「カラスマおっさんくさーい。でもサイコーよね、餃子にビール。今用意するわね!」

だがしかし、たまにその機嫌の反転が起こらない時もあるから、まったくよくわからない。
「……だから、すまんと」
「……(つーん)」
「……悪かった。だからこれ……」
「……(ぷーん)」
「ほ、ほら。前にお前が美味いって言ってたろう、ここのケーキ」
「ケーキなんかで機嫌が直るなんて思わないでクダサーイ」
「……」
話が違う、と思いながら、おれはケーキ屋の箱を持ったまましばし立ち尽くすしかない。

五里霧中。そんな言葉が頭の中に浮かぶ。
一寸先も見えやしないから、経験で対策を立てるしかない。ようやっと見えるわずかな視界と、そのほかのあらゆる情報を逃さぬようにキャッチし、必死で考えるしかない。

必死に謝り続けて、どうやらほんの少し期限が直ったらしいイリーナが、ふくれっ面でケーキをつつきながら言った。
「まさかあんたが、同棲はじめて3ヶ月の記念日をまったく意識してなかっただなんてねぇ」
「そんな細かく記念日って覚えてなきゃいけないものなのか……?」
「そうよ。できることなら一日ごとにお祝いしたいぐらいよ。毎日が奇跡のようなハッピーデイよ」
「なんだそりゃ」
ぽりぽりと頭をかいて、心底困ったような声で漏らす。
「……一体どんな行動がお前の地雷を踏んだのかと、ひたすらずっと考えてもわからないから……本当に参ったんだぞ、こっちは」

フォークを口にくわえたまま、ぱちくりとまばたきをする。そしてイリーナは、にんまりと笑ってみせた。
「……そーなの? カラスマ、ずっとあたしのこと考えてたわけ?」
「まあ……多少語弊はあるかもしれんが、間違ってはいない」
「……ふうん……」
にやにやと笑みを浮かべたまま、イリーナはケーキの最後のひとかけらを口に放り込む。
「ま、今日のところはそれに免じて、許してあげましょ。ただしお風呂、一緒に入るならね!」


さっきまでの不機嫌さはどこへやら。上機嫌で湯船につかるイリーナを前に、本気でわからん、と眉間にしわを寄せた。
「ねえカラスマー。カラダ洗ってあげましょっか、あたしのボディで♪」
「いらん。……なんだってこんな、急激に機嫌が直ったんだ……?」
「ふふーん。ドンカンなカラスマには、もしかしたら一生わからないかもねー」
「いっ……」

ちゃぷちゃぷと水面をかき混ぜて、イリーナは実に楽しそうに笑った。

「そ。カラスマはあたしのことを一生考え続けて、あたしのことで一生悩み続けてればいいのよ」

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