【カルジュナ】小説家x婚約者4
『すまない、分かってしまったんだが』
ジークがそう言うと、みんなが一斉にジークを見ました。それこそ、新体操なら満点が出るくらいに。小次郎はジークの肩をぐいっと掴み、ひそひそ声で訊ねます。
『本当か?あの、へんてこりんな箱の開け方も、あの蔵の開け方も、行方不明の少年の居場所も分かったと?』
『たぶん、本当だ』
『いつ分かった?』
いつ? とジークはびっくりしながら小次郎を見ます。
『いつって、この村に来たときさ』
――プチン
「カ、ル、ナさ~~~ん? もしや今日が草稿提出日であること、お忘れになっていらっしゃったのでは~?」
「……覚えては、いた」
「ほぉぉ~う? 覚えてはいたけれど、やぶる気持ちであったと、そうおっしゃられるんですのね? これはこれは、いつも締め切りを守るカルナさんらしくもない、怠惰も怠惰!傾国の美女玉藻ちゃんですら驚き桃の木遺憾の意、ですわ」
「ぐ」
今しがた再生されていたドラマのシーンに停止をかけたのは、編集者の玉藻であった。玉藻はカルナのデビュー当時からの担当で、対面で誤解されやすいカルナのことをフォローしてくれる、得難き人材でもあった。しかし気心知れた仲でもあり、ついでに言うと、どちらかと言わなくともアルジュナの味方である。
「しかしこれからアルジュナが出るシーンだったのだ。そこだけでも」
「いけませんったらいけません!この私のまんまるお目めは誤魔化せません、一昨日にデモデータを貰ってからずっと再生されていたのでしょう!」
玉藻が言い切り、カルナが苦虫を噛み潰したような顔になっている原因。それは、カルナの書いた「謝罪探偵すまないさん」の実写ドラマのデモデータのことである。九十分特番で放送される予定なのは、ある村に伝わる神秘の箱を開けて欲しいと依頼があり、村に訪れたところそこで神隠しによって少年が行方不明になってしまったというあらすじのものである。これは蓋を開けてみれば死人もなく、そのくせ主人公の素っ頓狂な部分がよく表れており、短編に属されながらもなかなか人気のある話の一つだ。
そしてこの実写ドラマ、何を隠そう、アルジュナがエキストラとして登場しているのである。行方不明になった少年役のため、出番はところどころの回想シーンと最後の謎解きシーンだけなのだが。しかしカルナは全編を再生しながら、緊張しながらもプロ顔負けの自然体を演技しているアルジュナを堪能していた。そこに、前述の玉藻の言動だ。デモデータがきたのが嬉しいのは玉藻とて分かっている。それが(例えカルナの一方通行であれ)婚約者の姿も入っているとなれば、カルナの喜びもひとしおだろう。
「はぁ…この際執着だの惚れた腫れただのとはどうでもいいですけど、ちゃんと原稿、上げてくださいますの?」
「無論だ」
「夕方にもう一度取りに来ますから、その時にできて居なかったら皮を剥ぎますので、ご了承を」
さらりと物騒なことを言いながら、玉藻はカルナの書斎を出る。今はパソコンでも映像データが再生できるからいけない、と思いながら。あれでは原稿の邪魔をしてくださいと言っているようなものだ。
しかし、エキストラ役の子役がたまたまトラブルで来れなくなったからと、咄嗟に見学にきていたカルナとアルジュナを説き伏せて出演させた甲斐があった、と玉藻はほくそ笑む。アルジュナのかわいらしさは、玉藻とて一目おいているのだ。もちろんあのような子供に手を出すほど飢えてもいないし、婚約者にする気持ちは猫の尻尾の毛ほどに分からないが。
きっとカルナは自身のブログやSNSでも実際のドラマが放送するときに宣伝するだろう。視聴率のことを考え、玉藻はうきうきと玄関へと歩いていく。
と、途中でリビングからひょこりとアルジュナが顔を出す。
「カルナ、おしごとおわってましたか?」
「いいえぇ、まだかかりそうなんですって。また夕方に来させていただきますね」
「そうですか…」
しょんぼりとしたアルジュナの髪を撫でた後、玄関で靴を履き、さてもう一度炎天下の中を歩くかと踏み出すその時。
「……カルナ、ほんもののわたしより、おはなしのなかのわたしがすきなんでしょうか…?」
弱々しく聞こえてきた言葉に、高級ブランドのサンダルを乱雑に脱ぎ飛ばして、玉藻は急ぎカルナの書斎へと駆け出した。灯台元暗し。ミイラ取りがミイラにやられるとは、きっとこのことだろうと思いながら。
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