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八重の日々の先に

今、売り出している「キャラクター」と、「自分」の乖離は、
元々は大きな問題じゃなかった。
俺は、どんなにキャラクターを作ろうとも、芯は俺のままだと思っている。
ただ、俺のキャラクターが今とは違う作り方だったとしたなら。


「ふぁぁぁ・・・。」

「ちょっと楽、その気の抜けた大あくびやめてよね。本番前なのに。」


黙っていれば可愛い顔立ちの天が、キッとこちらを睨んでくる。
台本を読みながら本番の「キャラづくり」モードに入っている時は本当にナイーブだ。
いや、元々が結構短気なんだと思うんだが。


「楽、眠気覚ましにコーヒー飲むかい?」


柔和な笑顔を浮かべながら龍が問いかける。
キャラづくりは本番のカウントダウンが始まってからの龍は、楽屋では本当に「イイヤツ」が滲む。

二人ともが、普段とのギャップが大きいキャラを課せられている。
俺はと言えば、確かにクールなキャラクターって言うのは自分とギャップがあるが、
二人からすればそんなに大したことはなく、むしろ一番素に近い。


「キャラを捨てるって日がくんのかねえ…」

「何、唐突に。大きい独り言?」

「独り言兼お前らへの問いかけ。…天は意地でもそのキャラ貫きそうだな。」


俺らのセンターは、こう見えてものすごい頑固でプロ意識ばりばり。
ファンを失望させるような失態を、自分が許すわけがない。


「俺は、出来れば普通でいたいなあ。嘘ついてる…っていう気もするし。」

「龍は根が穏やかすぎるからな。色気全面にってのはしんどいだろうな。」

「うん…この間もアイドリッシュセブンの子たちに『エロエロビースト』なんて言われたし。」

「小学生のからかいかよ。」


鍛えた体と甘いマスクは、女にウケる。ただ本人が純朴すぎて、事務所方針として
キャラ付けを余儀なくされるっていうジレンマだな。


「じゃあ、楽が代わってあげれば?抱かれたい男No.1だし?」

「はぁ?」

「エロエロビースト。…あ、楽に言うとガチっぽくてだめとか。」

「ガチってなんだよお前、喧嘩売ってんのか。」

「喧嘩?こんな低レベルの?」

「あああもう、二人とも本番前だからさー、仲良く、ね?」


だいたいが大したことないことで突っかかってくる天と言い合いになるのを龍が仲裁する、この奇妙な力関係。
ただ、最近は何となく。
天はこういう態度を取るのが、気を許して甘えている証拠なんだと思う。

気づかされたのは、外部からっていうのは癪だけど。
確かにあいつらと出会ってから、俺達の関係は、ビジネスライクで淡々としたものから、少しずつ変わっている。
「先の事」は、「トップであること」以外に、そこへ至る沢山の道筋が現れたように。


「キャラはともかくも、どういう形でも、TRIGGERはこの3人。それでいいんじゃない?」


何気なく置かれるような発言に、俺と龍は顔を見合わせる。


「…何。」

「いんや、その通りだなってよ。」

「天はいい子だなぁ。」

「ちょっ、やめてよ龍、ヘアスタイル崩れる。」


にまにましながら天の頭を撫でようとする龍。
俺も本番前じゃなきゃわっしゃわしゃに混ぜてやるところだ。
そんな時に、ドアがノックされる。


「本番5分前でーす、TRIGGERさん、スタンバイお願いしますー。」


スタッフからの声がかかると、俺達は「TRIGGER」のキャラを纏う。


「行くよ。」

「おう。」

「ああ。」


俺たちは、誰にも負けない。
目指す先がどんなに遠くても、どんな逆境になっても、
遠く未来までも、俺達を、俺たちの歌を。刻み込む。
最高の3人で、『引き金』を。

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