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王のスケッチ

 街道で幻獣と出くわした私は奇妙な集団に助けられた。
 ソロモン一行と名乗る彼らは、年齢も性別もばらばらの、どこか歪な集団だった。町の衛兵が束になってもかなわなかった幻獣を、あっという間に道端に転がしていた。
「で、次どうする?」
 あっさりとそう言ってのける少年の姿に、私は正体の分からない畏怖を覚える。
「ちょっと。ただで人助けなんてしないで」
「そうだね、何かお礼を要求しても、罰は当たらないんんじゃあないかな?」
 心のどこかで覚えた恐怖は、穏やかで人懐こい表情に紛れて、すぐに溶けて消えてしまう。

 といっても、駆け出しの画家である私ができるお礼というのはあまりなかった。残念ながら、ろくな路銀もない。助けた隊商の一群に加わり、次の町へと。私はその道中で、彼らの姿を描き出すことにした。
 水はなく、どうしても画材というのは限られてくるから、鉛筆で画用紙に筆を走らせるだけの簡素なものだ。
「俺、アニキのとなりな!」
 元気な少年が、ソロモン王と名乗る人物の隣で胸を張っている。
「かっこよく描いてくれよな。あ、傷もちゃんと描いてくれよな!」
「描いてほしいんですか?」
「おう、だって勲章みてえなもんだろ?」
「ちげえねえな」
 半裸の大柄な男がゆっくりと果物を齧りながら言った。スケッチだというのに動きまくるから、きちんとした絵とはいかない。そもそも馬車が動きまくるので、ろくな線は書けないが。それでも、彼らは喜んでくれた。
「おっ、なかなかうめぇじゃん?」
「そうね、悪くないわ」
「ちゃんとピヨピヨも描いて描いて~!」
「もっと”正義”って感じになりませんか?」
 そして、やたらと注文が多い。
 ふと、彼らが私にスケッチを頼んだのは……実利というよりはどちらかというと儀礼めいていて、対価はなんでも良いんじゃないかと私は思っている。あの少年は、何でもかんでも厄介ごとをしょい込んでしまいそうな底知れなさがあった。
 それで、礼を要求することで、「しょうがねえな」と飲んで見せるような意味があるんじゃなかろうか。
 考え事をしていたせいで、上手く描けなかった、と思えてカバンにしまい込む。
「あれ、それ失敗?」
「どうにも美しい凱旋、というよりはにぎやかな一幕、だな」
「ヴィータってのはすぐ変わりやがるもんだ」
「そうね。記録を残しておくのもいいかもね」
 ふと心に引っかかる。
 ページが足りなくなって、次のページへ。良い旅だった。久々に良いものが描けたと思う。

***

 私は絵筆をぬぐう紙に、あのときに書き損じた一枚を見つけた。それから10年の時が流れていた。もうすっかり私は町から町へと旅をすることはなくなっていた。
 ふと、町中で、ほとんど変わらぬままの少女を見かけたことを思い出す。別人だと思ったが、いや。
「ヴィータってのはすぐ変わりやがるもんだ」古びた紙の匂いに、男の声が呼び起こさせられる。
 紙の中で、少年だけが姿を変えている。書き損じはちょうど、表情のない王の肖像画だった。

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