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狂い咲きのあと

 コートを一度撫で、ベルトの色を差し替えた。魔法で作る衣装は、美々の気分に合わせて細部を変更することができる。些細な変化ではあったが多少気が紛れた。しかし――服の内側で未だ鈍痛を訴えている大量の生傷を忘れるには、この程度の慰めではどうしようもない。

 首を巡らせ、天井と床がそれぞれ崩落したフロアを見渡した。戦闘は既に終わっている。過剰量のアドレナリン(それと、少々のカンナビノイド)で明滅していた視界は、とうの昔に正常な色彩を取り戻している。
 一息ついてからこうしてこの惨状を眺めていると、こんなに散らかしてどうするんだという冷静な疑問が胸を過ぎる。いかに人気のない廃墟だからといってもこれは流石に問題になるのではないだろうか。

そんなことを考えながら、せめてこれ以上壊さないよう気を遣いながら跳躍し、床に開いた大穴に飛び込む。一階下の、元々は巨大ショッピングフロアでも収まっていたのであろう広大な空間――そこには沢山の元魔法少女達と、その中心に今も意識のある唯一の魔法少女がいた。鼻を掠める濃厚な血の匂いに息が詰まる。失敗した。着替えてからこんな血塗れの部屋に来るべきではなかった。ここを去る前にもう一度、匂いを消すために魔法を使わなければならないだろう。

 肉と脂と血の中心――最も凄惨な元戦争現場に、目当ての魔法少女を見つけ出す。向こうはとっくにこちらに気づいていたようで、まだ動く方の手をゆるゆると振られた。手を振り返す気にはなれない。腕を持ち上げるのも億劫そうな、力の無い動き。否――魔梨華自身に気の萎えはない。彼女の腱があまりに深く断ち切られたせいで、修復が追いついていないのだ。

「おー、美々か」
「一応挨拶でもしとこうかと思って。まだそんな状態なんですかあなた」
「急ぐんでしょ? ならいいよ、先帰っちゃって」

 潰れた目を見る。槍を構えた魔法少女が一人居た気がする。恐らくはそれに抉られて、魔梨華の片目はぽっかりと暗黒を覗かせていた。尖った刃物で目を潰されたとなればもう少し進んで脳を損なっていてもおかしくはないだろうが、会話が出来ているあたりその辺りは無事らしい。
 美々が一人で着替える分の時間を置いてなお、袋井魔梨華は酷い有様だった。それだけ乱暴に戦ったのだ。自分の身を護る、攻撃を躱す事など一切頭にないような猪突猛進さだった。魔梨華にしては珍しい。性格から想像するより余程普段の彼女は慎重で、無理な勝利よりもやりたいことをやって勝つことを重要視する。
――じゃあ、滅茶苦茶に傷つきながら勝つのが、今日のこいつのやりたいことだったんだろうか?

「やっぱ陽が少ないですか。全然、目もまだ治りそうにない」
「そうやね、いっそ陽が沈んじゃえば夜向きのに花を替えられるんだけど」
「あんたを嫌いなやつが、今のあんたを見たら」

 自分が少し笑っているのに気付いて、襟口を寄せて口元を隠した。だが魔梨華には表情がばれていたようだ。右半分の顔がホラー映画もかくやという状況でありながら、器用に楽しげに哄笑してみせる。

「追加のお客さんは大歓迎だ。なんなら美々が呼んできてくれたっていいんだよ」
「仕事があるって言ったでしょう。ただまあ、その辺で嫌いな魔法少女に会ったら言ってやってもいいかもしれませんね」
「なんて?」

 腕時計を見る。もうここを発たなくてはならない。ブーツの踵をかつんと鳴らし、破壊され尽くした窓へ歩み寄った。また手を振る魔梨華に小さく片手を挙げ、痛んだ喉で声を張る。実際のところ、今日は楽しかった。
「最弱状態の袋井魔梨華が居るから、殺すならぜひどうぞって」
「はは。嫌いな奴に言うのかよ、それ」

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