天邪鬼のキスは二回目から
「私はあなたが嫌いです」
あいつはすました顔で、そんな風に言う。
「あなたの顔を見ていると、むかむかします」
憎々しげに言う。
「私の方を見ないでください」
ふいっと顔をそむける。
そんなに、嫌悪を表面に出さなくても。
「いいじゃねぇかよ…」
オレは一人ごちる。
俺が嫌われているのは分かる。
そんなん、あいつの様子を見てれば一目で分かる。
だけど、だけどだ。
いざ、正面切って言われると、どうしても堪えてしまう。
そりゃそうだ。
だってオレは、あいつの事が――
「ザップさん、何ぼーっとしてるんですか?」
唐突に声をかけられる。
ぼーっとしていたオレは、一気に現実に引き戻された。
「あ? あぁ? あー……あぁ」
声をかけてきたレオナルドに生返事をしつつ、オレは目を向けていた先から、顔を背けて太陽の差し込む窓辺に目を向けた。
「あぁ? ってなんですか!! 適当な返事にもほどがあんだろあんた!」
食って掛かるレオナルドを適当に手であしらいつつ、オレは頬杖を突いたまま窓を見る。
先ほどまで、オレが目を奪われていた女から目をそらすために。
オレがあいつを見つめていたことがばれないように。
すると、窓を見ていたはずの視界に、唐突に影が差した。
「何、見てるのよバカ猿」
影は逆さにこちらを見ている皇・チェインだった。
「あぁ?! てめぇが勝手に視界に入って来やがったんだろうが、失せろクソ犬!」
何かを思うよりも先に口が勝手に動く。
次から次に、こいつをののしる言葉が口をつく。
頭の中が、吐かれた言葉と共に真っ白になっていく。
そして、脳裏には先ほどのこいつの姿が浮かぶ。
スティーブンさんと楽しそうに会話をするチェインの姿。
俺に向かって見せたことのないその笑顔。
とても嬉しそうなその笑顔を思い出すだけで、胸が締め付けられる。
そんな俺の頭ん中なんて知らないだろうチェインは、ふん、と鼻を鳴らした。
「あんたの、あんな視線に私が気付かないわけないでしょ」
言って、肩をすくめる。
「私の事を、あんなにずっと見て」
「はぁ!? 自惚れんじゃねぇよ、馬鹿が」
オレは瞬時に吐き捨てる。
本当はそんなことが言いたいんじゃないのに。
言葉は勝手に、俺の手を離れたナイフのように、鋭く飛んでいく。
「もっかい言ってみなさいよ」
チェインがそう言うのと、それは同時だった。
俺を逆さに見たまま、チェインは目を閉じた。
なんだ、やんのかコラ。
と、思った次の瞬間には、唇に何かが触れていた。
「――!?!?」
言葉も出ないまま驚くオレ。
よくあるチュッという効果音よりは。スッという擬音がよく似合うそれは、落ち着いて思えばキスだった。
って、キス……!?
「おま、な、に、してんだよ…!」
だって、お前はあの人が好きだったんじゃ……!
ほら、あの人もこの異様な光景を驚いてみてるじゃねぇか…!
見た先のスティーブンの旦那は、一瞬驚いた顔をした後で、呆れたようにため息を吐き、そして言った。
「チェインくん、気持ちは分かるが職場でラブシーンとはよくないな」
肩をすくめた彼は、にこっと笑って言った。
「外へでなさい、二人とも」
いった瞬間追い出された俺とチェイン。
長い廊下の片隅で、言葉も出ない俺に、チェインは言った。
「何呆けた顔してるのよ。もう一回キスしないと分からない?」
そう言って、再び顔を近づけてきた。
「いい加減、気づきなさいよね、バカ猿」
今度のキスは、ちゃんとチュッという音を立てて、俺の唇に吸い付いた。
-END-
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