ジャンル:おそ松さん お題:阿修羅新卒 制限時間:15分 読者:63 人 文字数:576字 お気に入り:0人

Requiescat in Pace

 班長は凡庸な日本人であった。海外はおろか、本州すら出たことがない男には、RとLの違いがわからないのも無理のない話であった。
「それじゃ一緒だ」
「…ラ…ライト…」
「Lは舌を上あごにくっつける。Rは舌を巻くんだ。班長さん」
 男は覚えの悪い生徒にため息を吐いた。突如四畳半で繰り広げられるのは、その部屋に似つかわしくないカルチャー・スクールのような光景だ。本来ならリノリウムの床の明るい蛍光灯の下でレッスンされるべきなのに、ここは湿って薄暗い築四十余年のアパートだ。

 そうだ。男はいたずらっぽく笑みを浮かべた。取り出すは高級海外ブランドの口紅、弱弱しく黄色い電球の下でも真っ赤に真っ赤に燃えるような色彩を放っている。男はそのうつくしい口唇を手慣れた手つきで真紅に染め上げた。
「LIP、だ。班長さん?」
 精悍な顔立ちの中で、その粘膜だけがてらてらと網膜を焼く。唇だけが浮いて、こちらに迫ってくるようだ。気が遠くなる。もはや一松は、目の前の男の顔しか考えられなくなっている。赤は血の色、生の色。化粧品のきついにおいが鼻孔を擽る。ひさしぶりの女の匂いであった。

 もはや英語レッスンなる睦言を交わしている余裕もなくなった。ぐらぐら回る視界の中で、眩く点滅する赤、ああ、安らかに眠りたまえ。一松はせんべい布団に倒れ伏し、頭をしたたかに打ち付けた。

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