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帰りたくなったよ

 夜明け前の海辺の道を、ひたすらに歩いている。どうせ道路脇に止めた車へ、また戻らなければいけないから、なんてことのない散歩だ。それでも価値のある一歩を踏み出して、そして歩みを止めない。隣町まで足を伸ばさないと、三門は海のない街だ。ただ、市街地の手前を走る海沿いの道には波除けのために一メートルほどの高さのコンクリートの壁が道路を守るように連なっていて、そこは散歩にちょうどいい道だった。子どもみたいな胸の高鳴りが夜明け前の、こんな冷えた空気にちょうどいい。連れてきた猫も、海風の匂いを気に入って機嫌よく歩いていた。街灯の明かりより、じきに顔を出す太陽の明かりが足元を照らすほうが明るく、人間なんて……という気分がちくちくと肌を刺す。猫を抱き上げて、パーカーの胸の中へしまい込んだ。暖かさに喉を鳴らす猫の重さが心地いい。ポケットに入れた煙草に火を付け損ねた俺を慰めるように、猫の頭が顎の下を擦って、喉から自然と笑いがこぼれた。
 まだ少し、肩の合わないパーカーは他人の、冬島慎次の匂いをさせていた。ポケットには煙草とライターが入っている。パーカーも煙草もライターも俺のものではない。あんたは久しぶりに帰ってきて洗濯物を出してシャワーを浴びて着替えたらすぐ布団に入ってしまったし、当真の匂いがする、なんて満足げに頬を緩めて。甘い匂い、なんて言うけどそれ、あんたが適当にドラッグストアの見切り品で買ってきたシャンプーとトリートメントの匂いだぜ。お揃いだからあんただって同じ匂いだし……。だからこうやって抜け出してきてしまった……あんたの元を。あんたの隣を。あんたの部屋を、寝床を。疲れて眠るあんたの目の下の色濃い隈や無精ひげや、乾いた唇から涎を垂らす寝顔が愛しくて、そして恋しがった俺の身体は俺の言うことを聞かない。あんたのことは大事にしたいけど、あんたの身体やセックスだって同じくらい好きなんだよ……。持て余した身体のことを言い募ってわがままを押し付けるのはいつだって簡単だ。でももう、それは俺の流儀ではなくなってしまった。いつまでも十一年は俺たちの間に横たわるけれど、俺はいつまでも十八歳ではないし、あんたの身体だって衰える。街は変わるし、俺たちはずっと変わってきただろ?パーカーの胸に収まった猫が一つ鳴いて、胸を蹴って飛び出した。朝日に薄暗く照らされるコンクリートの上に動くものを見つけたらしく、尻尾を振ってちょっかいを出す。多分フナムシか何かじゃねえかなあ、咥えて持って来ねえでくれよ、なんて声をかけて、少し先で振り返る。諦めたら犬みたいについてきて、また胸の中をねだった。可愛いなあお前。
「会いてえなあ」
 帰りたいなあ。もう結構寒いなあ。鼻を鳴らす。ずっと続くコンクリートの道をどう引き返したらいいか、この道が早く終わってくれないと、タイミングが分からなくて足を止められない。ほら、と猫に指差す。朝日が昇って、街灯とは比べ物にならないくらいの光が世界にあふれ出して雪崩れ込んで、隅々へ届いていく。帰りてえなあ、帰ればいいんだけどさ……。こうして俺は帰り方を忘れるのか?猫を連れて来たのに?いつまでも十八歳じゃいられないから、こんなことがそつなくこなせなくなっちまったのか?帰り方が分からなくて、端末からあんたの電話が来ることを身勝手に願ってしまう。猫よ鳴いてくれ、俺の代わりに。帰れなくなりそう。どうしてあんたのとこを、寝床を、部屋を、飛び出してきたんだ。こんなに恋しいのに。
「帰るか……」
 猫は鳴かなかった。暖かさに満足して、寝息を立てている。いつか、いつか本当にあんたのところを飛び出したときも、俺はきっとこうやって帰れなくなる――そういう未来を、朝日が照らす海岸沿いに見つけて、猫を抱き直した。

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