ジャンル:ポケットモンスターBW お題:今日の妻 制限時間:2時間 読者:18 人 文字数:2359字 お気に入り:0人

【ゲー主♀】付けが回ってきた

忘れたことが分かるならまだいい。忘れたというのを理解できているから。
問題は忘れたこと自体忘れてしまって分からなくなってしまうこと。きっと今自分の身に起きていることがそうなのだろう。
はじめこそ嫌味を言うものの冗談交じりに笑い朗らかな雰囲気を漂わせていた相手の顔が次第に曇り、一言二言話せば話すほどに焦燥感を募らせ、しまいには苛立ちと不快感を隠さず顔に出していた。
険しい面持ち。低くドスのきいた声。話の途中からずっと床を突き立てる杖の先から硬い音が響く。何故怒っているのか分からない。剣呑な光を称え見据える赤色の目からいやってほどに相手の怒りがにじみ出ている。
その人は頻りに何か自分は何者でありどのような関係だったかをわたしに言っているようだけど……。
「ごめんなさい。わたしはあなたのことを知らない」

目が覚めベッドに腰かけて、うんっと背伸びをしてからフラフラと台所へ。
ポケモンリーグで挑戦者が現れたらすぐに向えるよう自宅とは別に誂えられた屋敷は一人暮らしをするにはちょっとばかり広すぎて豪華すぎた。寝室から台所までの道のりも自宅よりかなり長い。それでも人は順応するようでやや寝ぼけた頭でも足がしっかり道を覚えていてくれて迷わず着いた。ずり落ちたハーフパンツを上げ、Tシャツの裾から手を差し込みボリボリと痒い所を掻き、大あくびをかます。だらしないことが嫌いな人がいれば一発で注意されること三連発をしながら目的物の前に立つ。
高い天井に届きそうなくらい無駄に大きい冷蔵庫を開け中身を物色。一先ずサイコソーダの缶を掴み足で冷蔵庫を閉めつつ、プルタブをプシュッと開けた。そのまま冷たくて甘い炭酸が喉を通り全身に染み渡る感覚に浸っていれば視界の端で何かが動いた。
はて。誰か親しい人でも泊めていただろうか。それともボールに入れていないポケモンだろうか。
正解はそのどちらでも無かった。
「全く貴女という人は…。もう少しばかり女性らしく振舞うということは出来ないのですか」
ぬぅっと台所の入り口から見上げるほど大きな男が渋い顔をして入ってきた。スーツに似た堅苦しい全身黒づくめの服は白いラインが入り、褪せた緑色の長い髪はゆったり後ろで束ねられその尻尾が肩から前に垂れ下がっている。
「どうしたのです?そんな呆けた顔をして」
訝し気な顔をしてこちらに近づく相手の足音に違和感を覚えた。硬い音のあとに床を擦る音。止まっていた思考が動き出し、やっと相手が右手に杖を持っていてそれを使いながら近づいてくるのだと分かった。一歩一歩近づくにつれ相手の背の高さがより一層際立つ。
缶の縁から唇を離して相手の顔を見ていれば首がどんどん傾いていく。
「昨晩はよく眠れましたかな」
赤い目と赤いモノクルに自分の姿が映る。それでも何も喋れずにいたら赤い目が何かを見つけたのか眇められた。丁度首筋あたりだろうか。なんとなしにそこを押さえ擦れば余計に赤い目が弧を描き、喉奥で楽しそうな笑い声を漏らした。
と、いうかよくよく見たら相手は中々年を取っており自分の親より上のように感じる。纏っている空気とか、喋り方とか、肌年齢とか。
「トウコ」
全然関係ないことを考えていたら不意に自分の名前を呼ばれた。
でも、ただ呼ぶにしてはそれはあまりにも普段呼ばれる感覚とはかけ離れすぎていて。こちらを見つめる視線もどこか怖いくらい真っすぐで。咄嗟に伸びてくる相手の手から距離を取ってしまった。
「あなたは誰ですか?わたしの友達の知り合い、とかですか……?」
伸びていた手がピタリと止まり、赤い目が真ん丸になったかと思ったら馬鹿にした笑い声が周囲に響き渡る。
「冗談が過ぎますねえ。ほんの数時間前のこと忘れたとは言わせませんよ」
再び伸びてくる手を今度こそ拒み逃げた。瞬間、相手の雰囲気が一気に変わり思わず身構える。
「では、貴女は私のことが誰か分からない。そんな戯言を抜かすのですね」
笑っているけど目は全然笑っていない。これは面白いと呟くわりに顔は全然楽しそうじゃない。
一先ず相手の気を損なわないように自分が今思っていることを説明した。だけど駄目だった。言葉を選んで話したつもりでも相手にとっては火に油だった。
半ば怒り狂う相手に重ならないはずの輪郭が重なる。それを口にすれば余計に相手が激しい剣幕で詰め寄ってきた。
「あのバケモノのことは覚えていて置きながら何故私の事を忘れるのです!?」
「Nのことをバケモノって言うな!――あれ?」
大切な人を侮辱されカッと血が上るも何かが突っかかる。どこかで似たようなやり取りをした気がする。どこだっけ、誰とだっけ。
どうしよう思い出せない。でも、何かを忘れたということは分かる。記憶の中にいる人達とじゃない。ベルやチェレン達とこんなことは絶対しない。なら誰と、いつ、どこで……。

「思い出せない。分からない…。知らない……」

頭を抱え俯く。視界に映る床の模様がぐらぐら揺れ出して不安な気持ちになる。胸の残る不鮮明な正体に心当たりがない。
体勢が崩れシンクに寄り掛かる。そういえば目の前にいる相手はどうなのだろう。揺れる視界で見上げると寂しさ悲しさに暮れ今にも泣くのを必死に耐え忍ぶ相手が其処にいた。こんな状態で聞くなんて空気が読める読めないの問題じゃないなんて知ってる。でも、聞かずにはいられなかった。
「あなたの名前を教えてください」
相手は消え入りそうな声を絞り出し言った。

ゲーチス、と。





トウコがかけられたのは、愛する人のこと以外をすべて忘れる呪いです。
朝露に濡れた蜘蛛の糸で呪いが解けます。
トウコが最も嫌う人だけが呪いを解くことが出来ますが、その人は呪いを解く方法を思い出せません。

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