ジャンル:みの夏 お題:忘れたいあの人 制限時間:2時間 読者:50 人 文字数:3344字 お気に入り:0人

ぬくぬくの魔法


※事務所にシャワールームがあります
その日は台風が関東に上陸すると、昨日からニュースではひっきりなしに特集されている。
ほんの少し自分の恋人のことが気になって、手帳に小さく書いた彼のスケジュールを確認してはきっと帰宅できるだろうと息を吐いた。

なのに

「あっ!みのりさんお疲れ様です」
「お疲れ、プロデューサー。急いで階段を降りてどうしたの?」
「JRが運休するそうで、至急私と社長で手分けしてアイドルの皆さんをご自宅へお送りしてきます。
みのりさんはお一人で帰れますか?」
「勿論、俺は遠くないから平気だよ。High×Jorjerのみんなは?」
「今から僕の車で全員...そうでした。夏来くんが現在ご家族がご実家へ行かれていて、一人だそうで危ないので事務所に留まってもらっているんです」
「ありがとう、プロデューサー。
他に残ってる子が居たら心配だから、俺も少し事務所に残るよ」
「分かりました。渡辺さん、お気をつけて」

夕暮れのビル内を駆けてゆくプロデューサーの背中を見送った。
事務所には夏来くんがいて家は一人だから帰れない、ならせめて隣に居たい。

「おはようございます」
「みのりさん...おはようございます」

事務所の扉を開けると、もぬけの殻の事務所と真っ暗のテレビ。
そして、外を見ていた夏来くん。

「プロデューサーから聞いたよ、他のみんなは帰ったんだね」
「電車止まると困るし、お仕事がお休みで...直帰した日ともたくさん」

夏来くんが目をやったホワイトボードに目をやると、目立つ赤いペンで直帰の文字がそこら中に書かれていた。
夏来くんはどうする?と尋ねようとして口ごもる。
恋人だから家に呼べばいい、幸い今日はバイクだけれど徒歩で彼を連れ帰れない距離じゃない。
でも数ヵ月前に付き合いはじめて、健全になんて決めていたせいで夏来くんを家にあげたこともない。まだプロデューサーにすら関係を言えていない俺たちは、ラブホテルはおろかビジネスホテルにいく社会的理由もない。

「台風の中一人は辛いよね」
「......」

沈黙。四季くんや隼人くんは彼を家に呼ぼうとしたかもしれない、旬くんももしかしたら泊めると言ってくれたかもしれない。
でも、きっとそれを断って彼はここにいる。

「俺に出来ることはない?」
「...大丈夫。みのりさんは、帰宅しないの...?」
「帰ったって俺も一人だよ」
「でも...」
「大人は一晩位家に帰らなくたって平気なんだ。今日は事務所に泊まっちゃおうかな」
「ふふ...プロデューサーさんも、そう言ってた」
「夏来くんも泊まる?この事務所ならシャワー浴びれるよ」

クスクスと初めて夏来くんは笑った。

「ジュンも...みんなも、家に呼んでくれて...でも台風だから。家族と一緒に居て欲しい」
「だから事務所に居たんだね」
「プロデューサーさんは...困ってた。でも、斎藤社長さんは...パッションがあるって許可してくれて」
「じゃあ、二人は帰ってくるんだ?」
「うん。...明日も電車が動かないと、お仕事のスケジュール...変わるから」
「よし!じゃあ二人の為に買い出しにいこうか!」

少し顔色の良くなった夏来くんの手を取って、ビルの外へ出る。
19時を回った都心はまだ風が強いものの雨もなく、電車の運休でコンビニには人もいなかった。

「...何、買うの?」
「うーん。インスタント食品とパンとおにぎり。あと飲料も大切だね。
夏来くんは欲しいものある?」
「ドーナツ...」

俺達二人の分とこれから帰ってくるプロデューサーと社長の分の食べ物と水をどんどんかごに入れていく。
夏来くんが春名くんからいつももらうドーナツを思い出したのか、夏来くんはドーナツを持ってきてかごに入れた。

レジへ持っていって会計を済ませる。

「えっと...千円で足りる?」
「俺が出すから良いよ。代わりに袋もってくれるかな、
「うん」

ニコリと笑った夏来くんのビジュアル値に、袋を渡したコンビニの店員さんが少し怯んだ。
その姿をみて思わず俺も笑ってしまう。

「「ただいま」」

事務所を開けるとがらんとしており、社長もプロデューサーもまだ慌ただしく車を走らせているみたいだ。

クシュン

「夏来くん大丈夫?
外出ちゃって体冷えたよね。シャワー室先に使っても良いよ」
「ありがとう...みのりさんは、寒くない?一緒に入る...?」

突然の申し出に思わず力の限り首を横に振って断った。

「そのままじゃ寒いだろうから、君がシャワーを浴びてるうちになにか布団とか暖かいものを探してくるよ」
「お先にお湯...頂きます」

おとなしくシャワー室へ向かった恋人を見て、胸を撫で下ろす。
この機会にと手を出す大人でありたくない、と強く己に念じながら倉庫を探すと可愛らしいパジャマを見つけた。
夏来くんに声をかけて更衣室に置き、俺は事務所のテレビをつけて台風のニュースに耳を傾けた。

「みのりさん...」
「夏来くん。わあ!可愛い!やっぱりくまっちが似合うね。こっちおいでよ。写真撮っていい?動画はだめかな?」
「似合ってない、よ」
「ううんバッチリだよ!」

ペタペタとくまみみのスリッパを鳴らして、夏来くんが歩いてくる。
倉庫で見つけたのは少し前に発売していた着ぐるみパジャマで、四季くんの大好きなショッキングピンクのくまっちだ。
一見色素の薄い夏来くんには似合わないかのように見えるギャップがとてもいい塩梅になっている。
可愛い。スマホに残したい。

「だめかな?」
「...っ。良い、よ...」
「ありがとう!」

小気味良いシャッター音を鳴らしてたくさんの写真を撮る。
写真を撮られることに慣れてない夏来くんは、上着の後ろのフードを照れ隠しに被る。
真っ赤な頬がさらに可愛いというギャップを生んですっごく可愛い。
世界中が彼にときめくと思う。

「あっ...ごめんね、夢中になってたよ。お茶用意したから飲んで良いよ。お湯も沸騰してるからドーナツだけじゃなくてカップラーメンも食べられるし」
「ありがとう...みのりさんもシャワー使って、ね」
「そうするよ」

夏来くんを一旦テレビの前に残してシャワー室へ向かう。
シャワーからでた頃には、すこしづつ強くなった雨が窓を叩いていた。

「一人にしてごめんね、寂しくなかった?」
「...ううん、同じ場所にみのりさんが居るって思えたから...平気。
カエール可愛い、ね」
「うん。この着ぐるみパジャマもすごくあったかいよ」
「...触っていい?」
「もちろん」

夏来くんの白い指が俺のパジャマをめくって裏地に触れる。
少し肌に触れた指は、シャワーを浴びる前よりももっと暖かく熱かった。
夏来くんが、パジャマを捲られて晒された俺の腕を撫でる。
見た目に反してしっかりと裏地までふかふかのパジャマは、一晩くらいなら寒さを忘れられそうなほど暖かい。

「あったかい...」
「そうだね、一緒なら毛布がなくても寝られるかも」

夏来くんがじっと俺の目を見つめる。
それを肯定するようにしっかり彼の手を握ると、少し照れたあと嬉しそうに笑った。

「一晩中こうしていて...いい?」
「良いよ。君のことが大好きだから、今日は一晩一緒に居ようか」
「プロデューサーさんと斎藤社長さんが、帰って来たら...誤魔化す?」
「本当の事を言ってしまおうか」

夏来くんは驚いてパチパチと瞬きをした。
そのあと深呼吸を少しして笑った。

「うん...分かった」

ぎゅっと肩を寄せて夏来くんと俺はしばらく二人の帰りを待ったけれど、帰ってくる前に夏来くんは眠ってしまった。
眠る前に夏来くんは、俺に「一緒にいてくれて...打ち明けようって言ってくれて...ありがとう」と呟いた。

社長の少し前に反ってきたプロデューサーは、買い出しに感謝をした事務所中から布団や季節外れの湯たんぽを出して渡してくれた。
夏来くんが眠っているなか交際を打ち明けたら、今日一日のみのりさんの献身が素晴らしかったので認めましょうと笑っていた。

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