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【カルジュナ】ラッキーストライク!3

「言い訳はあるかね」
「………無い」
カルナは両手を後ろ手に組み、足を肩幅に開いて質問の主を見ていた。
ジェロニモは他のメンバーと同じく、カルナへの「勉強」の先生であり、カルナが頭の上がらない人の一人である。
カルナがジャムに呆然とし、アルジュナを誘拐犯の好きにさせてしまったところを、フィンとディルムッドがそれぞれ車とタクシーで追いかけたのだが、途中で撒かれてしまったようで、現在の本拠地になった、ホテルのスイートルームに戻ってきた。
スイートルームには開けられたままのトランクがあり、そこからはアルジュナがこのバカンスのためにと持ってきた、カルナ用の日焼け止めが覗いていた。自分のものだけを持ってくれば良かったのに、とカルナは思った。ちがうことを考えている自覚はあった。思考が奔放と化し、現状から逃避している。アルジュナと二人きりのはずのスイートルームは、今や作戦会議室に様変わりしてしまった。
「ボスが拐われてから一時間三十九分。そろそろ向こうから何かしらの要求があってもおかしくないと思うんだけど」
「静かなのが不気味よね」
「……助けに行かないのか」
「何処へ?」
切って捨てられるように返答され、カルナは押し黙る。
バカンスだからと、アルジュナを縛るGPSつきのピアスを外させていたのもカルナであり、二人きりを強請ったのもカルナだった。それは言い換えれば、自分がそう願ったとしても、結果的にはそうならないだろう、と思っていたからだ。アルジュナのことだから他にも護衛を潜めているだろう、だとか、他の面々とて完全に二人きりにはさせないだろう、だとか。
けれどもそれは全てカルナがこの現状を甘く見ていたということだ。完全に二人きりであるならば、自分自身がアルジュナを守らねばならなかったというのに。
と、そこに不意に聞こえるビープ音。玩具のようなチープな呼び出し音が聞こえ、ジェロニモが視線だけでビリーを促した。部屋に引いてあるシックな電話機から、耳を劈くような電子音がしているというアンバランスさは、今の自分たちを表しているようにも見えた。
自分たちは生まれも育ちも年齢も国籍も信条も違う。だが、アルジュナというたった一人の下に集うということで初めて一団となる。烏合の衆ではなくなる。霧散した霧でも、有象無象の塵芥でも、掃いて捨てられる路傍の石でもなくなるのだ。
「ハロー!」
『やぁやぁ諸君! そろそろ私が必要かね!』
受話器を取ったビリーの耳に、聞き馴染みのある声。ビンゴ、と言いながら肩を竦めれば他のメンバーは通話相手が分かったようだった。
『困ったものさ。麗しい御婦人方とショッピングを楽しもうとしていたところ、なんと我らがボスが逢引きしていくのを見かけてしまってね!』
「ワァオ、駆け落ち? 若い恋人には飽きたみたい?」
『情熱的な女性だったように見受けられる。なんといってもあの四百四十CCと、改造マフラーの線の鋭さから察するに相当な馬乗りさ!』
「つまり?」
ビリーの問いに、通話口の向こうで一瞬だけ沈黙が走った。
フィン・マックールの思考が繋がった音。それは無音という、世界からの断絶だ。
『私が彼らを見たのがシラク―サの三十七号線ストリートから十七キロメートル地点。その時点で時速八十キロメートルのロートルバスと比較するにバイクの時速は百十八キロメートル。そこからハイウェイ入り口までを二分三十一秒で通過すると仮定し、その間に私の「小鳥たち」がハイウェイの出口に包囲網を敷いた』
さらさらと淀みなく紡がれるフィンの言葉を、キッドは左利き用の万年筆で速記していく。それをエレナが方眼紙と地図にトレースし、ロビンフッドがパソコンに位置情報を落とし込みながら監視カメラのアクセス権限を壊し始める。
目の前で、自分を置いてけぼりにしたまま進んでいく世界のスピードに、カルナは目を見開いたままに硬直する。自分もそこに入っていかなければならないのに、喉が張り付いてしまったかのように空気を通さない。
ガチャンッ! とビリーが受話器を置き、カルナを見る。
「さて、行こうか」
「……何処へ」
「何処って、おかしなことを聞くね、カルナ」
ジェロニモがビリーの言葉を続ける。
「地獄に決まっているだろう」
一斉に立ち上がったメンバーが、スイートルームを飛び出した。

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