ジャンル:Fate/GrandOrder(腐) お題:苦いガール 制限時間:1時間 読者:43 人 文字数:1598字 お気に入り:0人

苦い人※カルデア龍以

あなたはとても苦いのです。
あなたはとても苦くて、私の胸を苦しめるのです。

「あれ?」
と、以蔵の手元を覗き込んで、龍馬が驚いたような声をあげた。
「以蔵さん、コーヒー?」
「おん」
以蔵はまるでなんてことないように答えて、芳醇な香りの舶来の茶を口元に寄せた。しばしその香りを味わって、一口、熱い液体を口に含む。ほう、と息を吐いてソーサーの上にカップを戻す。
手慣れた仕草は、まるで煙管を嗜む時のように、ほのかな色香を漂わせていた。
「以蔵さんが西洋のお茶を飲むなんて、意外だな」
そう言った龍馬の手元にあるのは、柔らかな枯れ草色をした番茶だ。
龍馬はまるで子供のような猫舌で、湯呑みにふうふう息を吹きかけてからやっと、そろそろとお茶に口を付ける。
おいしい。
にこぉと微笑みながら呟く様子は、本当に子供のようだと以蔵は思う。
龍馬のその仕草が子供の頃から変わっていない。そのことを知っているから自分にだけそう見えるのか。それとも、この長身の優男のこの表情は、誰にも子供のように見えるのか。
以蔵はしばし検討する。
答えは出ないが、自分にだけ、龍馬のこの仕草が、表情が子供のように見えるのだと、そうだったらいいと以蔵は思った。
「僕はやっぱり日本のお茶が好きだなあ。以蔵さん、コーヒー、おいしい?」
「わしが不味いもん好んで飲むように見えゆうか?」
くくっと可笑しそうに龍馬が笑った。
「以蔵さん、美味しいぐらいは素直に言えばいいのに」
悪かったな、と口元をへの字に曲げて、また一口、芳醇な苦味の香る液体を、以蔵は口元に運ぶ。
「……コーヒー、苦くない?」
龍馬のこの問いは、以蔵がかつて毒を恐れ、今でも癖の強い料理は食べられないことを知っての発言だろう。
「この苦味は、嫌いやない。獄舎に南蛮渡りのものなんぞ、差し入れられたこともないしの」
「そっかぁ」
よかった、と言わんばかりの口調で言って、龍馬もまた、十分冷めたほの甘い番茶をぐびりとあおった。
「……うん。でも僕はやっぱり、飲むなら苦くないお茶がいいなあ。安心するだろ? 以蔵さんはなんで、苦いお茶なんて飲むの?」
きょとんと、まるで子供のような真っ直ぐな眼差しで龍馬が問う。
裏も表もない問いかけを、以蔵に投げかける。
以蔵は知っている。維新の英雄となったこの男は、抑止の守護者となったこの男は、交渉を最大の武器として、決して迂闊な問いかけなどしないことを。裏も表もない、子供みたいな問いかけなどしないことを。子供の頃、好奇心旺盛な龍馬が、船着き場の船頭や流しの行商なんかを捕まえて、にゃあおんちゃん、これはなんじゃ、それはなにに使いゆうもんじゃ、にゃあ、にゃあおんちゃん教えとうせ。そんな風にまんまるな目をキラキラ光らせて質問責めにしていた、あの表も裏もない真っ直ぐな問いかけを、今はもう以蔵にしかしないことを。
胸の奥の苦い思いを、以蔵はまた一口コーヒーを口に含んで、芳醇な香りとともに吐息に変えた。ほう、と香りとともに胸のつかえを溶かしていく。
「わしがこいつを飲むんは、おまんがいつまでも子供で、わしはちゃあんと大人じゃからじゃ」
龍馬はまたきょとんとした顔をして、くつくつと可笑しそうに笑った。
「なにそれ、以蔵さん。僕の方が年齢も享年も歳上なんだけどな」
「精神年齢、っちゅうやつのはなしじゃ」
「ええー? 以蔵さんに言われるのは、なんだか複雑だなあ」
龍馬は笑って、目を細める。その、柔らかく細められた目に余計な影を落としている帽子をひょいと以蔵は取り上げて、ぐしゃぐしゃと龍馬の髪を乱した。
「えいき。お子様舌の龍馬はずっと、そうやって冷めた番茶でも啜っとりゃええんじゃ」

あなたはとても苦いのです。
あなたはとても苦いから、あなたの背負う苦味のほんの一欠片でも、わたしに味あわせて欲しいのです。

おしまい


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