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必須要素は入れられましたか…?

「あっれー。小鍛治プロ、奇遇ですねぃ」

 げ、という声が口を衝いて飛び出した。
ぱたぱたと着物を揺らし、小柄な少女が駆け寄ってくる。

「……どうも、三尋木プロ」
「どうもー。小鍛治プロも来るんですねぇ、こんなとこ」
「えぇ、まぁ。次の収録まで時間が空いていたもので」
「あ、同じく。時間つぶしにちょうど良いんですよねぇ、水族館って」

 にっと笑って、三尋木プロは私の顔をじっと見つめる。
その目の奥に幻視したのは、ちろちろと燃える炎。
水槽をライトアップするために薄暗く光量が調節された屋内で、その炎はあまりに眩しく、そして毒々しすぎた。

思わず、目を逸らす。

「……」

 三尋木プロは笑ったままだった。
笑ったまま、私を。小鍛治健夜を、打ち倒さんとする熱量を宿していた。

学生時代から、この炎が苦手だった。

「あ、ほら。この魚すきなんです」

 咄嗟に誤魔化そうと、視線の先にあった水槽を指差す。
そこには名前も知らない、グロテスクな顔つきの魚がゆらゆらと泳いでいた。

「へぇぇ。小鍛治プロ、割とゲテモノ好きなんですねぃ」
「あ、と、うん……」
「いいと思いますよ? このどっしり感と大人っぽさ、確かにどことなく良さがあるような気も」

 相変わらず、三尋木プロは笑顔を崩さない。
その笑みに、どことなく意地の悪さを感じるのは気のせいか。

「それにこの目つき。死んだ魚のような目、なんて言いますけど、コイツは目に闘志が宿ってるような気がしますよねぇ」

 そう言われ、あらためて水槽の中の魚を凝視する。
なるほど、言われてみれば確かに瞳の奥に強い意志のような――


『あーっと、強い!』
『強い、あまりにも圧倒的すぎる!』
『トビ終了だぁーっ! 小鍛治を倒せるものはいないのか!』


 そんな無責任な実況がフラッシュバックする。
あの日から、私を見る周囲の目が二種類に変わっていった。

 バケモノを見るような、怯える目。
これはまだどうでも良かった。そもそも、人付き合い自体が苦手だったから。

 もう一種類。バケモノを打ち倒そうと、燃える目。
これが本当にダメだった。一瞬でも不意を見せたら突き刺されそうな視線。
刺々しくって、眩しくって、そして、そして――



「小鍛治プロ?」

 三尋木プロに肩を叩かれ、はっと意識を覚醒させる。
三尋木プロと顔を見合わせ、一瞬の静寂。
そしてすぐに、彼女はけらけらと笑い始めた。

「小鍛治プロ、なんて顔してんですか」
「……そんなにひどい顔してました?」
「そりゃもう。……なーんか、イメージ変わっちゃうな」
「イメージ?」
「イメージ。もっとこう、小鍛治プロって言ったら生半可な雀士はとって食わんばかりのバケモノだと思ってて」
「人をなんだと思ってるの……」
「お、タメ口」

 咄嗟に出たタメ口だった。自覚なしに飛び出た言葉。

「なーんだ、そんな付き合い方もできるんじゃないすか」

 微笑み。そしてそっと手を差し伸べられ、

「あらためて、三尋木です。新米プロですが……どうぞよろしく」

 ちいさな手だった。けれど、その手はどこか暖かくて。

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