ジャンル:遊戯王ARC-V お題:せつない狼 制限時間:1時間 読者:30 人 文字数:1522字 お気に入り:0人

狼になんてなれない

※シンクロ次元過去話。ユーゴ視点。ユゴリン描写あり。

送り狼という言葉がある。
夜道だから送っていくよと甘い声をかけて、これは安心と二人で歩いていたら、隙をついて襲ってくる男の事だ。

その言葉をDホイールの資金稼ぎのためのバイト先の先輩から教えられた。先輩はニヤニヤしながらこう続ける。
「ユーゴの幼馴染の娘、結構可愛いよな~!リンちゃん、だっけ?ああいう勝ち気なの、俺すごく好みなんだ」
そしてオレの耳元で呟く。昼に食ったばかりの食べ物の臭いとタバコの臭さが混ざったキツイ悪臭だ。顔がベタベタに汚れる気がする。
「最近暗くなるのが早くなってきたし、俺も『送り狼』に久々になっちゃおうかな、なんて」
「そのくっせー口でリンに話しかけんなよ、ロリコン」
ニヤつく先輩の顔に一発拳をぶちこんだ。

「ユーゴ、またバイト先でケンカしたの?これで何度目よ!」
バイトからの帰り道、リンと二人で並んで歩く。日はすっかり落ち、街灯の少ないコモンズのエリアでは少し歩いただけでももう先が暗くて見えない。

「向こうがオレにケンカふっかけてきたんだよ!で、オレはそれに乗っただけだ」
「そんなに顔にアザ作っておいて」
「向こうのアザの数はオレの倍はある!」
「そこは偉そうにするんじゃないの!バカ!」

施設に帰ったらちゃんと手当するから、あんまりいじるんじゃないわよ、とリンは続ける。
それを聞いてオレは帰るのがすごく楽しみになった。リンの優しい温かい手で治療されると、痛みもイラつきもどっかいっちまう気がする。何でだろうな。

「リン、送り狼って知ってるかー?」
「……誰よ、アンタにそんな言葉教えたの」
「オレが今日ボコボコにした先輩」
それを聞いた瞬間、リンは呆れたと言わんばかりに深くため息をついた。
「……しょーもないわね、男って」

リンはオレから数歩離れて早足で歩く。
「そんなに急がなくたっていいだろ、あんまり離れんなよ」
「……ねえユーゴ」
「あん?」
「ユーゴも誰かの送り狼になりたいって思ったことあるの?」
「え、あーっと……うん、まあ」

リンはオレの方を向き微かに笑う。リンはこの頃こういう大人ぽい笑い方をするようになった気がする。
笑い方だけじゃない。リンはここ最近大人の女のように振る舞うことが多くなってきた。
その仕草一つ一つにいちいちドギマギするオレもいるし、自分だけが「子ども」のまま取り残されたような焦りと不安を感じるオレもいる。
なんだろう、さっきまでいい気分だったのに。すごくムカつく。

「……その送り狼になりたい相手がお前だったらどうするんだよ、リン」
自分でもぎょっとするほど怖い声が出てしまった。しまった。リンに怒られるだろうか、気持ち悪がられるだろうか……

リンはどっちの反応も見せなかった。ただ少し驚いたような顔をオレに見せ、
「ユーゴなら私の嫌がることはしないでしょ?大丈夫、狼にならないわよアンタは」
とガキの頃からよく見た明るい笑顔でオレに話しかけた。

リン、お前の言うとおりだよ、オレはお前の嫌がる顔や悲しそうな顔は見たくない。だからお前を襲う狼になんてなれない。なりたくない。
すぐにケンカを買うオレを誰かは狂犬と言ったが、惚れた女の前じゃオレはただの忠犬だ。
柄にもなくなんとなくセンチな気分になってくる。こんな気分になるのも夜が悪い、月が悪い!

「……でも、ユーゴがもし狼になったら受け入れるしかないのかな」
「え?」
「あー、独り言よ、気にしないで」
「何だよ、何いったのか教えろよリン!」

月がぼんやりと浮かぶ夜。少女と狼になりきれない少年は暗い夜道を賑やかに歩いていく。

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