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ミキシン鯖とアルパカ特異点

型落ちの薄型テレビでは夕方のニュースが流れている。民放だ、たわいも無い内容で本当にくだらない。アルパカふれあい牧場の取材カメラと差し出されたマイクに、ふっくらとした手足の子供たちが笑顔でじゃれついている。そこに駆け寄る母親。どちらも頼りない体に見えて、レオニダスとしては危うさを感じずにはいられない。レオニダスの知るかつての故国では、誰もがこんなにやわらかいままではいられなかった。人理を全うするための旅とはいえ、さまざまな国のあり方を見聞することは非常に有意義であり、それを束の間許されることができた自分の幸運をレオニダスは思った。今は戦装束を解いて現代の冬服というものに身を包み、手にしたマグカップからはコーヒーの湯気が立ち上っている。その手の中の温かさを追いながらふと意識の焦点をぼやけさせたレオニダスの脳裏に、「四つ足の動物の四肢を切断する」という一単語が現れた。やはりとりとめもない。それはいつかマスターが不意にこぼした雑学だった。いや、切断ではなく折るのだったか……? 考え込むレオニダスをよそに、薄型テレビの中ではアルパカが間抜けな顔で草を食んでいた。フワフワとした毛並みは羊に似ている。かの肉も羊と同じようにマトンと言うのだろうか?

「ふー、ただいまー!」
「ただいま戻りました」

明るい少女の声と、落ち着いた男の声がユニゾンする。その後ろでパタムと静かに閉まるドアはひとりでに鍵がかかった。ファミリータイプのフラット、セキュリティはそこそこ、という物件を探し当てるのはなかなか難航したらしい。

「マスター! ご無事で何より」
「アルパカまみれの街で有事も何もあるまい」
「そうかな、フィンは突進されてたけど」
「はは、アルパカさえも惹きつけてしまったのかな。いささか困ったが、まあアルパカ程度ではね」

その間もパラケルススはマスターのマフラーを解くのを手伝っている。着膨れしないスマートな冬服姿のサーヴァントに囲まれて、もこもこに着膨れしたマスターの姿は頼りなく、さながら仔アルパカか幼児のように見えた。そのフワフワした笑顔が誰の心にもいつか染み入ってしまうのだ。雨垂れがいつか石を穿ち、いつか割らんばかりに。頑固で強情で、曲がっても折れても傷ついても立ち上がることができる強い笑顔だ。冬木で召喚された時から、レオニダスは敬服を覚えている。

「なんと、拠点に帰ってからもアルパカを見るとはな。代わってやればよかったか」

さっさと仕立ての良いジャケットを脱いでレオニダスの隣に陣取った小次郎が、薄型テレビを覗き込んで呆れている。そこでは農場で飼育されている牛として、一頭のアルパカが紹介されていた。

「辛うじて人が映っているチャンネルはここしかなかったのです。どうやら人を除く全ての動物がアルパカに置き換わっているようですね」
「外はもっと酷い。人間もアルパカになっているとしか思えない密度でな、マスター、現地人とのコンタクトは難しいのではないか」

話している間にキッチンに消えていたマスターからは、「何ー?」という明るい返事が帰ってきた。小次郎の言葉はよく聞こえなかったようだ。

「今、テレビに映っている彼らは?」
「民放だったら大方収録だろう」
「しかし、先ほど彼はそこのアルパカを牛、と紹介した。奇妙なことに」
「映像にも感染するのではないでしょうか。映像の中の牛を、後からアルパカに書き換えた」

それぞれが思い思いにソファに腰掛けながら、シャツのボタンを緩めたり、セーターの腕をまくったり、襟足を暑そうにかきあげたりしている。大の男が四人、テーブルを囲み、真剣に見やるのはアルパカ牧場特集。

「みんなー、とりあえずご飯にしようよ! 小次郎とフィンは手伝って」
「私も手伝います」
「お手伝いできることがあればなんなりと!」
「パラケルススは座ってて」

アルパカまみれの奇妙な特異点に、不思議な縁のあるサーヴァント4人。誰もが今、マスターの次の決断を待っていた。


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