ジャンル:DD! お題:彼女が愛した何か 制限時間:30分 読者:139 人 文字数:1252字 お気に入り:0人

デリミラ ※未完

「何が好き?」
「将来の夢は?」
「これからやりたい事は?」
 そんな風に誰かから訊かれる事は、これまでの人生で数多くあった。転々と変わるアルバイト先で、少しでも仲良くなろうと考えての事だったのだろう。それらの質問に対する答えを持ち合わせていない自分は、いつも曖昧に笑って誤魔化すばかりだった。
「なあ、ミラ。好きなものとかやりたい事ってないのか?」
「どうして?」
「いや、俺としてはこのままずっとここに居て欲しいけど……ミラはそれで良いのかって思って……」
「私は好きでここに居るんだよ、デリックさん」
 時折、彼は何か不安を抱えるのだろう。曖昧に笑う癖がついてしまった自分では、表情でも言葉でも彼の不安を拭えないのが少々悔しい。性別や素性を隠した事以外に、彼への隠し事や嘘なんてひとつもないのに。
「好きな物はね、ブルーベリーだったよ。このピアスも、気に入っているんだ」
「ああ、いつもつけてるもんな」
「だけどね、それ以外は何も無いの」
 肌寒いこの季節、夜の営業では酒類だけでなくスープもよく売れる。昼と夜の間の休み時間である今は、スープの仕込みが佳境だ。グラスを拭くデリックの方ではなくスープの鍋に視線を向けながら言葉を重ねた。
「キリルの事は、唯一の家族だし愛してるよ。ブルーベリーが好きなのも、家族としての繋がりだったからなんて理由もあるんだ。でもね、私が持っているのはそれだけ。夢も、未来も……考えた事がなかったから分からないんだよ。だけどね」
 塩と胡椒で味を調えて、最後にひと混ぜ。スープの方はこれで充分だ。次はソースの仕込みである。
「本当はずっと、帰る場所が欲しかったんだ」
 刻んだ玉ねぎをソースパンで炒め、色が変わるタイミングでトマトを投入する。少しばかり煮たってくるまで弱火で混ぜる必要があるが、それもすぐに終わるだろう。
「だから、欲しかったものはもう————」
「ミラ!」
 丁度火を止めて蓋をしたタイミングで、デリックに抱きすくめられた。彼の胸板に顔が埋まっているので見えないが、鼻をすする音と時折落ちてくる水滴で彼が泣いている事が分かる。
「絶対、幸せにするから」
「デリックさんには沢山幸せを貰ってるよ」
 もうすぐディナータイムの開始時間なうえに、午後シフトのガスがもうすぐ出勤してくるだろう。号泣する店長がもう一人の従業員を抱き締めているこの状況を目撃するであろう彼の困惑は想像に難くない。
「あ、やりたい事。ひとつだけあった」
「うん?」
「今度は私が、デリックさんを幸せにしたいな」
 背中に回した腕は、彼よりもずっと細い。それに、彼はこんなにも優しくて魅力的なのだ。自分が何もせずとも、むしろ自分が居ない方が恋人なり見付ける事も容易いだろう。それでも、彼から貰った沢山の幸福と愛情を返さずにはいられない。腕に力をこめれば分かり易く硬直した彼の頬にキスをひとつのせて、彼から離れた。
「この続きは、また夜に」
 笑って告げて、「おはようございます」の声T

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