ジャンル:DD! お題:軽い曲 制限時間:30分 読者:110 人 文字数:1188字 お気に入り:0人

ジャズミュージックとウイスキー

「そこのお嬢さん。リクエストは?」
「えー俺ぇ? んーじゃあ何か明るいやつ! ぱーってハッピーになれそうなの! ていうか俺お嬢さんじゃねえよ」
「了解です!」
 なんとなく初めて入った店は、どうやらジャズバーだったらしい。アマチュアバンドが即興で演奏しては、「次はどんな曲を?」と客にリクエストを募っている。彼等はどうやら目につく女性客を片っ端から口説いているらしく、とうとう男連れにも声をかけはじめたようだ。既に大分出来上がっている相棒は気付いていない様子だが。
「あ、良いなこの曲。俺好きだ」
「……そうか」
「なんか楽しい感じする」
「ふうん」
 彼の言葉でいうところの明るくてハッピーな曲を、バンドの彼らはどう解釈したのか。軽いノリでアップテンポな曲は、成る程確かに楽し気だ。
「ヴルーベリ巡査は、普段音楽聞くのか?」
「んー? あんま聴かねえな。音楽、詳しくないし」
「ああ、理系だっけか」
「それ関係なくね?」
 赤く染まった頬でキリルは軽やかに笑った。アップテンポな曲と混じり、まるで映画のワンシーンか何かのようだ。
「ひとりで居る時に、寄り添う歌って色々あるじゃん」
「うん? まあ、あるな」
「かなしい曲とか、逆にわーって盛り上げるようなやつとか。でも、それってさ後から聞けなくなるかなって思ったんだよ」
「…………。」
「ひとりだったって、後から思い出して。その時の気持ちをさ、曲を聞く度になぞるのって嫌じゃねえ? だから、俺あんま歌聴かねえの」
 からからと軽やかに笑うと、キリルはグラスを傾けた。言葉の内容と裏腹に、その表情は笑顔を乗せる。
「なあ、あんたら。さっきの曲、CDあるか?」
「あるぜ! こっちが10リスヴァレッタドル、こっちのも同じ値段で……」
「OK、2枚くれ」
「まいどー!」
 バンドのひとりに声をかけると、先程の曲の入るCDも売っていたらしい。聞いた事のない楽曲だったが、彼等のオリジナル曲だったようだ。
「ダグ?」
「やるよ、1枚」
「サンキュ……え、なんで?」
 小首を傾げるキリルにCDを押し付け、店主に代金を支払うと彼を促して外へ出た。ドア越しに聞こえる音は、別の曲の演奏を始めたようだ。
「どうせ思い出すなら、楽しい事思い出したいだろ?」
「へ」
「なんだ。今夜は楽しくなかったのか? 俺はお前とこうして飲むの、結構楽しくて好きなんだけどな」
「俺も! 好きだよ!」
「じゃあ良いだろ」
 ふわりと笑って「ありがとな!」と叫ぶように告げた彼の頭を撫でる。どうせなら、あんなちぐはぐな笑い方ではなくこんな笑顔ばかりを見詰めていたい。日付も変わるこの時間、今日を彩る最後の思い出なら愛しい彼の満面の笑みが良いのだ。それがCD1枚で買えるなら安いものである。そんな邪まな想いと裏腹に、CDケースは月明りを反射して光るのだった。

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