ジャンル:キルミーベイベー お題:愛と憎しみの風 制限時間:15分 読者:46 人 文字数:1116字 お気に入り:0人

私は今、彼女を。【二次創作】【オチなし】

私は今、彼女を強く憎んでいる。
彼女とは、そう。
数年前、私が雇ったメイド、やすなのことだ。
「やすな……どういうつもりだ。」
桃色のメイド服で身を包んだ彼女は、微かに微笑み、光の抜けた瞳を私に向けたまま、ふふふと声を小さく上げた。
「どういうつもりも何も、私はご主人様のご命令のままに、仕事をしているだけですよ。」
彼女が私に向けているのは、薄暗い瞳だけではなく、
「命令…?私は、主人に包丁を向けろなんてそんな命令、したつもりは無いぞ。」
料理に使う、銀色の包丁であった。
「いいえ、私はそんな命令を承ったわけではありません。」
「じゃあ一体…、」
「ご主人様は、仰いましたよね。もし邪魔者を館内に見つけたら、即座に始末しろと。」
「邪魔者…?この私が、邪魔者だというのか。」
私は聞き返した。
かつて彼女は、私に忠誠を誓い、逆らったことなど無いはずなのに……それなのに私を邪魔者と見なすなんてそんなこと、信じられないからだ。
するとやすなは続けた。
「いいえ、ご主人様ではありません。」
「ご主人様のそのお身体が、邪魔だと申しているのです。」
彼女はそう告げると、その包丁を手に持ったまま、一歩一歩、わたしに近づいてきた。
こんなことはしたくなかったが、仕方ない。
私は自らのポケットから、拳銃を手に取り、彼女に向けた。
「やすな……。私の身体が邪魔者とは、どういう事だ。」
「そのままの意味ですよ。ご主人様にお身体がある限り、必ずご主人様との別れに直面しなくてはならない。だから。」

「今ここでご主人様のお身体を始末し、魂だけの存在になって頂くのです。」

その瞬間、私は確信した。
彼女は狂っているのだ、と。




ーーーーーー





私は今、彼女を強く愛している。
彼女とは、そう。
数年前、私を雇って下さったご主人様、ソーニャのことだ。
私は、私は拾われたその瞬間から、強く強く彼女を愛している。
いずれ自然に来るであろう別れを惜しみ、恐れ、今ここで彼女のお身体を自らの手で始末しようとするほど。
彼女を、ずっと愛しているのだ。
けれど、きっとご主人様は、私を愛してなんていないだろう。
きっとご主人様は私とは正反対に、今、強く強く私を憎んでいるのだろう。
分かり切ってる。そんなこと。
けれど私はそれ以上に、きっと、いや絶対、ご主人様を愛しているから。
だから。

「今ここでご主人様のお身体を始末し、魂だけの存在になって頂くのです。」

窓から冷たい風が吹く。
この部屋にはきっと、ご主人様の憎しみと、私の愛が混じりあった切ない風が、吹き乱れているんだろう。

愛と憎しみの風が。

きっと今、この部屋に。

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