ジャンル:アイドルマスターシンデレラガールズ お題:私の螺旋 制限時間:30分 読者:49 人 文字数:2528字 お気に入り:0人

【いずまゆ】螺旋の足りない機械の恋

 学校の先生が、分解して遊ぶといいよと言ってくれたパソコンは、振るとからから音がした。
 プログラミングとか、統計解析とか、そういう方が好きだったから、パソコンの中身を開いて見たことはなかった。先生がくれたパソコンも、OS自体は古いけどまだ動いていた。それが、ある日起動しようとしたら、できなくなった。電源ボタンを押すと、短い間画面にエラーメッセージが表示されて、そのあと消える。あまりない経験だったけれど、三回も見れば、その英語の文字列が何を意味しているのかわかった。ファンが動かないから、パソコンを起動できません。なるほど。廃熱用のファンが動かなければ、パソコンに熱がたまってしまう。ファンが動かないと、パソコン自体に不良がなくても起動しないらしい。一つ賢くなった。
 私は精密ドライバーのセットと、小物を入れられる空のケース、付箋紙とペンを持ってきて、パソコンの横に置いた。パソコンをひっくり返して、螺旋穴を探す。いつも使っているのとは違って、このパソコンは分解ができるようになっている。メモリを増設できるように、だと思う。くるくると、螺旋を外していく。外した螺旋は、外した順番と種類で小物入れに入れて、どこの螺旋かを付箋紙にメモして貼りつけた。これは一番外側のカバーを留めていて、その次は内側のファンのカバー。キーボードを外して、コネクタを抜く。振ると、からからと音がした。ファンの羽のあたり、まわりそうな部分にドライバーを引っかけると、まわらなかった。もう一度、振りながら、かんかんと軽い力でファンをたたく。からら、と落ちてきたのは小さな何かの欠片だった。それが三個、机に落ちた。ファンはまわるようになったので、元に戻していく。パソコンの中身がこんな風になっているなんて、知らなかった。途中で、その欠片が、どうやらパソコンの蝶番の部分を支えるパーツであることに気づいた。そこが欠けて、パソコンの中をからからと動いて、そしてファンに引っかかって起動できなくなった。なるほどな、と思った。ソフト面では頻繁にあるけれど、ハード面では原因のない故障はないんだな。パソコンの最後の螺旋をしめて、追い出された欠片を眺めた。
 私がパソコンを開いて閉めるのを、隣でまゆが眺めていた。一体何をしているんだろうと、視線は物語っていて、私は分解だよと短く答えただけだった。欠片はゴミ箱に捨てた。それは、接着剤でくっつけてどうにかなるものではなかったから。
「……終わりましたか?」
「うん。ごめんね、待たせて」
「いいえ。泉ちゃんが楽しそうだったので、私は構いませんよ」
「……楽しそうに見えた?」
「はい」
 恋人は、いいものを見たと喜んでいる。私には、何がそんなにまゆを喜ばせたのか、わからなかった。私の螺旋は、どうやらいくつか抜けているらしい。そのことに、まゆと付き合うまで気づかなった。だって、友達付き合いでは問題がなかったから。さくらも亜子も、私の言動に突っ込みこそすれ、それはおかしいと言うことはなかった。
 でもまゆは、私の言葉で悲しい顔をする。気づいたら喜んでいる。そのどちらも、私には理由がよくわからない。
 いまだって、つまらなかったのかと思ったら、にこにこ楽しそうにしている。私はパソコンの電源が無事に入ることを確認して、正常終了させた。私の螺旋は、どこに落ちているんだろう。拾ったら私に返してほしい。そうしたら、私だって、もう少しまゆを笑顔にするのがうまくなるかもしれない。悲しませることが、減るかもしれない。
「……あのさ」
「なんですか?」
「まゆは、こんな私の、どこがいいの?」
 あるいは、私の身体の中のどこかに螺旋は落ちていて、揺れればからから音が鳴るのかもしれない。そんなことありえないけれど、不意にそんなことを思った。
「不思議なことを聞きますね、泉ちゃんは」
 まゆが、私に歩み寄る。休みの日だからと私の家に呼んだのに、なぜかまゆが紅茶を淹れてくれて、いまは追加を淹れなおそうとしていた。電気ケトルがお湯を沸かす音が聞こえる。一歩後ずさると、から、と幻聴がした。逃げる必要はないのに、まゆの言葉を聞くのが怖いのかもしれない。
「まゆは、泉ちゃんが好きですよ」
「……どこが、って、聞いても?」
「そうですね……強いて一つ挙げるとすれば」
 まゆが私の手を握った。身長差の分だけ、まゆがつま先立ちする。唇をふさがれる。しっとりしていて、やわらかくて、ぬるいアールグレイの味がした。からから、音は鳴らなくなった。当然、そんなものはないんだけれど。
「そうやって、まゆの好きなことを探して、それを再現しようとするところ、でしょうか」
「……問題に対して、解決策を探すのは、妥当じゃないかな」
「恋の答えは一つじゃないですよ。泉ちゃんが言うところの……一意性がない、ですね」
「……また難しいものを」
「始めたのは、泉ちゃんですよ」
 まゆはもう一度、唇に触れてから、微笑みを残して離れた。心臓が、痛い。人間の身体に廃熱ファンはないから、逃げ場を探した熱が顔に集まっている。頬が、赤くなっている自覚があった。なんでまゆは、そんなに楽しそうな表情で、私を見るんだ。
「……私って、やっぱり少し変なのかな」
「どうして?」
「……恋人になったのに、それっぽいこと、全然できてない気がする。だって、今日もこれ、デートのはずなのに、それっぽいことしてないよ」
 まゆがくすくす笑っている。今度こそ、変なことを言ったらしい。恐る恐る、言葉を待った。
「世間一般の定義だと、違うかもしれないけど。私は、デートだと思っていますよ」
 はにかんで答えたまゆの頬が、私ほどではないにしろ赤くなっていて、心臓がぎゅうっと絞めつけられた。
「……そっか」
 私はそれだけ答えるので精いっぱいで、パソコンの前に戻って座り込んだ。やっぱり、足りない螺旋の音はしない。まゆの紅茶が運ばれてきて、口をつけるとじんわりと身体にしみ込んだ。足りないかもしれない螺旋は、きっとまゆが埋めてくれる。それ以外は、なくてもきっと、大丈夫な気がした。まゆは、私の隣で笑っている。

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