ジャンル:ワールドトリガー お題:私の螺旋 制限時間:30分 読者:102 人 文字数:1706字 お気に入り:0人
[削除]

誕生日には、町いちばんのケーキ

 扉を押し開ける。開発部のラボに一番近い、ミーティングルームの隣の喫煙所は屋外へ出たところへベニヤ板とトタンの急造で、隙間風がひどいので冬はあまり人がいない。寒ささえ凌げれば、けっこう穴場だ。やっと世界が明るくなった朝八時なんかは、とくに煙草が吸いたくなる。眠気でしょぼつく目を擦りながら煙を吸いこむと、指先で挟んでいる火に意識がすっと収斂していく。日差しがあっても、こんな冬の日はずいぶん冷え込む。けっこう盆地みたいな地形のこの街は、夏は暑くて冬は寒い。雪はそれほど降ることはないが、除雪機を扱える職員もいる。暖冬だと聞いている。それだって、例年と比較してとかいう但し書きがついていて、冬が寒くなくなったわけじゃない。生身の手の甲がすぐに冷えて、血管が縮こまるのが分かる。内履きのままの足裏でじゃりっと砂が鳴る。見上げた天井もけっこうヤニで汚れて、まあ、だからベニヤとトタンで適当に作ったんだよなあ、と汚れやすい部分だけベニヤを入れ替えればいい造りにした人間のことを考える。頭いいよなあ、すぐ臭くなるもんなあ。寒い、雪降りそう。これ一本だけ、これ一本だけ吸ったら帰ろう。帰ったら風呂入って寝て、あとのこと全部起きたら考えようそうしよう。今何時だっけ……。どうしようもなく他愛のない、何にもなかったが故の、「無為」とか「日常」の塊みたいなものが俺のなかを駆け巡っていって、端末の時計を確認した。ついでにソシャゲの新年ガチャ回してこ……と、見慣れたアイコンをタップする。起動した画面で、「お誕生日おめでとうございます!」と二次元の美少女が微笑んでゲーム内で使えるプレゼントをくれた。実生活にはそんなに役立たない、俺がちょっと喜ぶくらい。
「あー……そっか……」
 誕生日だった。過去形ではなく、今日がその当日だ。そっかあ、ハッピーバースデー俺。
「あれ、お疲れ様です」
「お疲れ、おはよ」
「お誕生日おめでとうございます」
「いやそれお前もでしょ、おめでとさん」
「そういう年でもないよなあって思うんですけどね」
「いやお前、俺より若いじゃん」
「三が日、好きなケーキ屋がまだ正月休みなんですよ」
「へー」
「冬島さん、年賀状に『ハッピーバースデー』書かれてたりします?」
「ああ、あるある」
「年末の飲み会のときにケーキ出されたり、お年玉でまとめられたりとか」
「あったあった、年始だから誕生日パーティーとか言ってもだいたいみんな旅行行ってたりしてた」
「ですよねえ」
 思い出の大体を、東春秋は「ですよねえ」という一言で片づけて、メビウスの青い箱からの一本に火を付けた。
「さっきソシャゲ起動して気付いたもん」
「なんか貰えました?」
「新年だからね」
「そりゃよかった」
「お前今日どうすんの」
「帰って寝ますよ」
「ですよねえ」
「明日ケーキ屋行きます?」
「え、野郎ふたりでお誕生日会?」
「え、さすがにそれは」
「加古ちゃんとか呼んでよお」
「加古はハワイ行ってるらしいです」
「マ?ワイハ?」
「二宮なら来ますよ」
「焼肉?」
 俺の冗談を「だいぶそれ古いですよ」と笑った東は、その他に焼肉に呼んだやつらの名前を挙げた。ものの見事に男ばかりだった。何だこのご時世に、性別が偏ってる。東の指先がちょっと伸びて灰を落とす。俺たちの手の甲はもうすっかり土気色でちょっと気持ち悪い。それで何だ、こんなところでお誕生日会の算段なんて。
「すげえな、焼肉屋貸し切りじゃん」
「あー……できるかもしんないですね」
「すげえな」
「ちょっと、自分でもびっくりですよ」
 ボーダー入ったら、一気に子だくさんみたいになっちゃった感じっていうか。
「またまた何言っちゃってんの」
「そうですよ、まああいつらの前で言わないですけど」
「へー、かっこいいじゃん」
 ね、かっこいいでしょう俺。なんて、東春秋は冗談でもそんなことを言わないような未来しか分からなくて、いつもより強く煙草を押し付けて消した。いらいらしている、理由もわかっている。
「明日、おにーさんがケーキ買ってやろうか」
 いちばんでっかいの買ってやるからな。

同じジャンルの似た条件の即興二次小説


ユーザーアイコン
作者:ニューイヤーメルティ ジャンル:ワールドトリガー お題:遠いサッカー 制限時間:30分 読者:82 人 文字数:456字 お気に入り:0人
渋谷にはもうたくさんのサポーターが集まっています!青いユニフォームを着た若いレポーターが蒸気した顔で陽々と伝える画面。やっと重い腰を上げるきっかけができた、と息 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:のどう ジャンル:ワールドトリガー お題:緑の社会 制限時間:30分 読者:320 人 文字数:809字 お気に入り:0人
ここで誰かが産まれるのを、安らかに死ぬのを極力手伝っているだろう、少なくとも、侵略者の襲撃からは。「息をしやすいまちを造っているに過ぎないんだ」歩きながら、迅が 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:赤松@WT妄想垢 ジャンル:ワールドトリガー お題:計算ずくめの液体 制限時間:30分 読者:471 人 文字数:752字 お気に入り:0人
「飲んでください」 疲れがとれますから、と出された飲み物の真意を知った上で、飲み干す自分も相手と同じくらいたちが悪いと冬島は思った。※「ごめんね、ハルちゃん」く 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
くじの結果※ ※未完
作者:赤松@WT妄想垢 ジャンル:ワールドトリガー お題:最強の犯人 制限時間:30分 読者:457 人 文字数:387字 お気に入り:0人
「うっわぁよりにもよって残った二人が……」「ようやく面白くなってきた」 冬島と太刀川はそれぞれ目の前に与えられた課題に対し呟いた。前者はため息をつきながら、後者 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:赤松@WT妄想垢 ジャンル:ワールドトリガー お題:コーヒーと母性 制限時間:30分 読者:415 人 文字数:612字 お気に入り:0人
砂糖を多めでと言われたから、ああ本当に限界なんだなと思ってしまった。「甘ったるいです」右手の書類を離さないまま、左手に持ったマグカップを傾けた東は眉を寄せる。「 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:蚊取り線香 ジャンル:ワールドトリガー お題:知らぬ間の風邪 制限時間:30分 読者:663 人 文字数:1026字 お気に入り:0人
「……何故、こんなことをした?」東は静かに尋ねた。向かいに座るのは一人の少年。「すいませんって、反省しましたって、俺も三輪も」「何故、と俺は聞いているんだ」東は 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
新評価 ※未完
作者:-10 ジャンル:ワールドトリガー お題:春の秀才 制限時間:30分 読者:348 人 文字数:454字 お気に入り:0人
※犬飼夢(というより犬+モブ)注意※「犬飼ってさ、自分のこと天才だと思ったことある?」桜の花びらがたまに通りかかる窓際の席でミルクティーを混ぜながら問いかけた質 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:しんどい ジャンル:ワールドトリガー お題:許せない船 制限時間:30分 読者:828 人 文字数:1680字 お気に入り:0人
ぼくは遠征艇が許せない。 当真先輩がぶつぶつぼやくように狭いのもあるし、冬島さんみたいに三半規管がぐらぐらするのもあるけれど、それ以外にも理由はある。 小さな 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ニューイヤーメルティ ジャンル:ワールドトリガー お題:愛と憎しみの団欒 制限時間:30分 読者:439 人 文字数:786字 お気に入り:0人
何でもない、ただの飲み会だ。私はそう自分に言い聞かせながらジョッキに残ったビールを飲み干した。斜め向かいでは、かなり気分が良くなっている忍田本部長と城戸司令が談 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:灯千鶴@鏡花さんお待ちしてる ジャンル:ワールドトリガー お題:神の罰 制限時間:30分 読者:457 人 文字数:1034字 お気に入り:0人
遠征に行っていたという艇が戻ってくる。じきに星の命も尽きようというときに、と思うが、だからこそ、であろうか。国内にそれらしい候補が居ないから植民地と玄界を回って 〈続きを読む〉

匿名さんの即興 二次小説


ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:終わりのセラフ お題:謎のカップル 制限時間:15分 読者:3 人 文字数:583字 お気に入り:0人
「お二人は付き合ってなさってるんですか?」ニュースや、色々な番組で見るこの言葉。普通は人のプライバシーに首を突っ込むなんて嫌にならないだろうか。いや、俺が可笑し 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:DQ11(腐)  お題:日本お尻 制限時間:2時間 読者:14 人 文字数:1836字 お気に入り:0人
あ、またか。そう思いながらバッグから携帯を取り出す。僕は、自宅からだいぶ遠い私立高校に通っている。だから、七時十五分発の電車に乗って行かなければならない。といっ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:ぷよぷよ お題:意外な秀才 必須要素:穢れたる地上に舞い降りし漆黒の堕天使 制限時間:15分 読者:6 人 文字数:381字 お気に入り:0人
「我は、穢れたる地上に舞い降りし漆黒の堕天使 ……」「何言ってんの?」「遂に頭が…いや、元からおかしかったですわね…」一見して優秀そうな出で立ちの彼が、所謂"中 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:おおきく振りかぶって お題:苦しみのしきたり 必須要素:ひょっとこ 制限時間:1時間 読者:12 人 文字数:1497字 お気に入り:0人
「あのさ、試合中にリラックスする方法、考えたいんだけど」本日の部活動を終え、汗だくの練習着を脱ぎながら阿部はそう言った。それは唐突な言葉であったが、特定個人に対 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:鬼滅の刃 お題:名前も知らない事件 制限時間:15分 読者:5 人 文字数:761字 お気に入り:0人
自分が選抜を通り、鬼殺隊の剣士として任務にあたるようになって早くも数か月が経っていた。相変わらず鬼は怖いと思っているし。殺されるかもしれないと毎度、考えているが 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:終わりのセラフ お題:僕の嫌いなぬるぬる 制限時間:2時間 読者:12 人 文字数:584字 お気に入り:0人
なにこれ目の前の気持ち悪いぬるぬるした生き物に俺は恐しさと驚いていた。いきなり柊家の研究室に呼ばれたかと思えば、何だよこれ。「驚いたか?」背後に気配がして咄嗟に 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:東方Project お題:小説の借金 制限時間:1時間 読者:39 人 文字数:2793字 お気に入り:0人
夕暮れ時の残照に赤く浮かび上がる幻想郷。人里に響き渡っていた子供たちの笑い声が遠ざかっていく。仕切りに客寄せをしていた露店も帰り支度を始める。その片隅、貸本屋『 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
K
作者:匿名さん ジャンル:名探偵コナン お題:東京の行動 制限時間:15分 読者:24 人 文字数:787字 お気に入り:0人
「いたぞ!」「追え!」やばい。見つかった。今俺は何者かに追われている。その何者かは知らないがきっとアポトキシン4869の謎を解明している組織だろう。さっき組織の 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:名探偵コナン お題:煙草と広告 制限時間:30分 読者:13 人 文字数:1275字 お気に入り:0人
「快斗 煙草臭い」これは彼の悪い口癖だ。高校卒業後、俺はマジックを本格的に習うためロサンゼルスへと旅立った。それが正解だったのか2年間の修行の後俺はロサンゼルス 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん ジャンル:終わりのセラフ お題:彼と沈黙 制限時間:4時間 読者:14 人 文字数:684字 お気に入り:0人
今日はひな祭りだ。目の前の豪華なちらし寿司に目を光らせる。「な、なぁ暮人。何で俺を呼んで・・?」なんて声を掛けても彼は無言でちらし寿司を食べている。さすが柊家。 〈続きを読む〉